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ひよこ系少女と門下生
お題:見知らぬ道 制限時間:15分 文字数:669字
「清様、待って下さいまし!」
「……雛子様」

男は数歩を歩み、更に一歩を歩いた所で立ち止まると、一拍置いてその歩数より三歩多い小さな足音が男の後を追い、やがてすぐ隣で止まった。

二人分の足音が止まった道には、はぁという深い溜息と、ゼイゼイという息を整えるか細い呼吸が響き。
やがて、呼吸に合わせてヒラヒラと小刻みに揺れる葡萄茶色のリボンの真上に、二つめの溜息が零れ落ちた。

「もう、俺の後を着いて歩かないで下さいと言った筈ですが……」
「……やです!」

今だ笛の音のように響く呼吸音の合間から間髪入れずに聞こえた返事に、長身痩躯、袴姿の男ーー清史郎は、自分の胸下までしかない背を丸め、登頂のリボンと同じく葡萄茶色の行灯袴に覆われた膝に両の手を突く、自分が先ほど雛子と呼んだ娘に、二人が今現在歩む道の先、辻にある町井戸よりも深い三度目の溜息で応えた。

「あのですね、俺はこれから道場に行くんですよ?」
「知ってます」

担いだ竹刀で軽く肩を叩き、困ったように頬をかく清史郎に、やはり間髪入れずに言葉を返した雛子は、今度こそ息が整ったらしく、華奢な背をすっくと伸ばして真下から清史郎を見上げた。

「私の、お家に帰るんですよね!」
「……正確には、雛子様の叔父君のですがね」
「えぇ、私の下宿している叔父様のお家に、二人でね」
「……」

そう言って、頬に後れ毛を貼り付けたままニッコリと微笑む雛子に、清史郎は今度ほ溜息さえも返さず、代わりに、「二人で」との雛子の言葉への意趣返しのように、歩調を早め、おスタスタと道を歩き始めた。
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