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箱の中。
お題:箱の中の地下室 必須要素:ちょんまげ 制限時間:15分
小さな箱を抱えていた。

 俺でなく、いつも一緒に遊ぶあの子が。俺の後を付いて来ながらも、いつも。

 特に変わったところのない、大人の掌くらいの高さと奥行きの正方形に、一回り大きな蓋の嵌った白い箱を。
 彼女はいつも、蓋が天井になり、底が地面と水平になるように抱えていた。

 だからといって、箱をどうするでもなくーー開けるでもなく、振るでも、中を覗き込むでもなくーーまるで彼女と同じく幼い女の子がぬいぐるみやお人形にそうするように抱えていた。

 かくれんぼをしようが、鬼ごっこをしようが。彼女はいつも箱を抱えていた。

 いや、一度だけ背負ったこともある。
 それは俺と友達が意地悪をして、わざと洞窟探検に出掛けた時。
 親に入ってはいけないと言われていたこの穴の、わざわざ匍匐前進が必要な横穴に入ったのだ。

 結果、その時、僕とその友達は、幸運にも彼女の箱の蓋を開けさせることもなければ、彼女が離れることもなかった。

 箱を傾けないようにして必死に背負い、そこまでして追いかけて来る彼女の様子に、僕は幼心に心底呆れ返ったものだったが――。


「今思えば、僕は彼女が好きだったのかも知れない。だからそんな意地悪をしたんだ」

 白い壁に凭れて言った、そんな僕の言葉が通じたとは思わない。
 だけれど、同じように壁に凭れて向かいに座った左前の白装束を着たちょんまげの美丈夫は、大げさに頷いてみせてくれた。

 きっと、彼の過去に覚えがあるのだろう。僕のような思い出が。

 年は、15歳くらいだろうか。
 当時の常識では成人といったって、何時だって男はガキだから、こいつも彼女か、彼女の祖先にそういう意地悪をしたのだろう。



 結果として僕がその箱の中身を知ったのは18で彼女と再開してからだった。
 その年になっても未だ箱を抱えた彼女と、僕は――。

「今思えば、僕は彼女と遊ぶ時、いつも、何処かで君の声を聞いた気がするよ。あの声の主が君であるなら。君はいつも、俺を止めようとしてくれたね」

 でも、彼のその行為は無駄だった。

 何故なら、人間は好奇心に勝てない生き物だから。
 男というのは、好きな子のことを何でも知りたいなんて自惚れた所有欲を持っているから。

 そして女は――少なくとも『彼女ら』は、男の全てを欲しがるから。
 何で人間は、全てに拘るのだろう。

「今回も……無駄かな?」

 天井を見上げた俺につられ、彼も上を向く。俺が散々気になった箱の中は、いざ入ってみれば地下室に続く階段があって、蓋だと思っていたものは透明な天井で。

そこには、彼の子孫の、俺の孫の、思い人の少年が写っている。
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