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しゃぶしゃぶと湯豆腐
お題:赤い恋愛 必須要素:もみあげ 制限時間:15分
「何にも思いつかないから、お題を無視することにするよ」
「あら、せめてどっちかでも満たしてみたら如何ですか? 例えば、もみあげとか」
「そっちかい! 僕としては赤い恋愛の方が好みなのだが……」
「あら、でしたら血の雨が降りますわよ」
「……そうだね、君が恋愛をとか言い出した暁には槍が降るよ」
「そして槍が赤い血しぶきを上げ、世界には血の雨が7日7夜降り注ぐ訳ですわね」
「我々の恋愛で?」
「えぇ、私達の恋愛で……そうしたら、お前も死んでしまうわねぇ」

 僕の軽口に彼女はふふふっと笑って、自分の正座の上に乗った黒猫の首筋を撫でた。

「ねぇお前、恋愛に殉じて死ぬだなんて、まぁなんて立派な男ぶりなのでしょうねぇ」
「楽しんでるとこ悪いけど、しゃぶしゃぶは雌だよ」
「まぁ、お前! しゃぶしゃぶと言うの? うふふ、美味しそうな名ねぇ……」
「因みに飼い主の名前は湯豆腐って言うんだよ」
「あら、ごめんなさい。わたくし、湯豆腐は余り好きではございませんの」
「おやツレないねぇ。世界の終わりに血の雨を降らす約束をした相方に」
「ふふっ、お鍋の世界と違って人間には自由恋愛が認められておりますの」
「おやおや、君の恋は鍋と同じで裡に入れば皆同じかい?」
「いいえ、裡に入れたが最後……ゆっくりゆっくり咀嚼して、最後はうっとりと飲み飲むわ」
「それならしゃぶしゃぶも湯豆腐も、この庭を楽しみながらもう少しゆっくり堪能してくれたまえ」

ちろり、と赤い唇から覗いた赤い舌の舌なめずりに喉を鳴らしながらそう言えば、彼女は目の前に広がる庭と膝上の猫から、漸く僕に目を向けた。

「えぇ。もっと味を付けて頂戴。苦手な湯豆腐がもっと美味しく食べられるように」
「お安い御用だけれど、お嬢様はどんなお味をお望みかな?」
「……少なくとも、恋のお味はもう少し薄味で結構ね」

 手で促されて隣に座り、猫を撫でる降りをして膝に乗せた手は、すかさずぺしりと叩き落とされた。
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