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即興小説まとめ。
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年越し蕎麦
お題:やば、彼方 制限時間:15分
「やばっ、年越しソバ買ってない!」
隣でスーパーの袋を覗き込みながらそう絶叫を上げたのは、つい先ほど一緒に今年最後の買い物に出た長年付き合いのある彼女である。
そして、スーパーの袋から察せられるように、彼らは今、その今年最後の買い物の帰りである。しかも、家路への道半ばと来た。
「珍しいこともあるものだな」
普段滅多に驚かないのに、この時ばかりは目を丸くした彼の言う珍しいとは「彼女が物を買い忘れること」ではなく「彼女が食べ物を買い忘れること」に掛かっている。
何故なら彼女は、彼が呆れる程に食欲旺盛で、しかもイベント好き。春は甘酒とちらし寿司、または桜を見ながらのお重。夏は塩を振ったスイカにそうめん、秋はかぼちゃやさつまいもを使った料理といった具合に、季節の物をその季節中に食べないと侘び寂びとか、季節感とかいったものを感じられない体質なのだ。
もちろん、バレンタインもお彼岸もひな祭りも、お盆もハロウィンも冬至もはずさない。
彼女は和洋折衷とか言ってるが、食べ物への興味の薄い彼からしたら雑食の極みだ。
その彼女がーー昨年はわざわざ更科そばを取り寄せで用意し、湯で時間まで拘って、除夜の鐘と共に茹で上げる程の拘りを見せた彼女がーーなんと、大晦日に年越し蕎麦を買い忘れた。
これは事件である。
「……何で、気づかなかったんだろ……!」
「……さぁ?」
彼がデートを忘れた時も、彼女の誕生日に残業になってしまった時にも発したことのない悲痛な叫びに、彼はそうとしか答えられなかった。
食い意地の権化、共通の知人間のあだ名は「食神」の彼女が気づかなかっただけでも事件だから、それにしたって、彼女と一緒に買い物をしていた自分までもが気付かないということがあるのだろうか。
「どうしよう……」
いや、あるからこそ彼女は今、この通り悲痛な顔をしているのだ。長年連れ添った彼氏としては何とかしたい。が。
「……戻る?」
「いい……」
聞いたその声に彼女は力無く首を振った。
「蕎麦くらいなくたって、年は越せる……よ」
しかしそう言った彼女の顔は今にも泣きそうに歪んでいる。たかが蕎麦一つで、まるで家より遠い彼方で迷子になった子どものように幼い表情で途方に暮れている。
思わずその手を握りたくなる程の悲壮感。圧倒的悲壮感。しかし今、彼女を救えるのは蕎麦だけ!
あぁ、蕎麦があったなら! いっそ俺が蕎麦だったら!
などと、本気でそんなあほなことを考えるくらい、今年一年、彼は彼女に夢中だった訳なのである。
> 【年賀】あけましておめてとうございます。
未完
【年賀】あけましておめてとうございます。
未完
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未完
> 【年賀】あけましておめてとうございます。
【年賀】あけましておめてとうございます。
お題:光の唇 必須要素:クリスマス爆破計画 制限時間:15分
「クリスマスを爆破しよう!」
「アイル―を呼べ! 笛を吹け!! ランスを突き刺せ!!」
「カップルから素材をはぎ取ってやるのだ!!」
などと、深夜のTLでエア座談会を開いたエア狩り友兼フォロワーの皆様とこうして年を越せたことを、私は非常に嬉しく思っております、っと。
「おおう! 年が明けてはるがな!!」
こたつで半目になりながら、そんなツイートを打っている間に年が明けてしまった。乗り損ねたあけおめ、言い損ねたことよろに、私は頭を抱えてこたつの天板に突っ伏した。
クリスマスは爆破計画の計画書を作っている間に性の六時間を過ぎ、その前の今年……いや、昨年の正月は、お気に入りキャラの姫はじめを年またぎで書くという失態をおかした私! かわいそうな私!
確かその前の正月も、大晦日の晩から今年の嫁を108つ数えている間に年が明け、しかも最初の方に数えたキャラクターによって萌えが再燃、元朝参りの道すがら彼とその嫁のことを考えてニヤニヤしていた。
「108つの煩悩が三年連続持ち越しって……」
えぇと、毎年煩悩を持ち越して、108×3……いや、三乗? それっていくつ? あたしこどもだからわかんなぁーい! 四捨五入で三十歳児の暗算の出来無さ舐めるなやフハハハ!
「そうだよ、今年で四捨五入したら三十だよ……」
これぞ本当の三十苦ってか。って、やかましーわ!
私は考えるのを止めた。もう仰向けになってこたつに首もとまで埋まってみる。……反対側から足が出たわ。そうですね、今年も会計から足が出たところか預金マイナスの月がありましたねワロスワロス。
「でも本当、生きてて良かったわ……」
いやまさか、マヤ歴を信じた人々の怨念であんな人やこんな人が復活するなんて誰が考えますか。
どこのカプコンのお祭りだって話ですよ。つよくてニューゲームにも程がありますよ、何ですか百年後千年後って……。
おかげで東京冬の陣、歴史ジャンルはプチバブルでしたがね。お茶会にご本人様登場&サインビンゴですよ。時は正にバブル! しかし財布は氷河期! じゃかしーわ。
> 箱の中
箱の中
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箱の中。
お題:箱の中の地下室 必須要素:ちょんまげ 制限時間:15分
小さな箱を抱えていた。
俺でなく、いつも一緒に遊ぶあの子が。俺の後を付いて来ながらも、いつも。
特に変わったところのない、大人の掌くらいの高さと奥行きの正方形に、一回り大きな蓋の嵌った白い箱を。
彼女はいつも、蓋が天井になり、底が地面と水平になるように抱えていた。
だからといって、箱をどうするでもなくーー開けるでもなく、振るでも、中を覗き込むでもなくーーまるで彼女と同じく幼い女の子がぬいぐるみやお人形にそうするように抱えていた。
かくれんぼをしようが、鬼ごっこをしようが。彼女はいつも箱を抱えていた。
いや、一度だけ背負ったこともある。
それは俺と友達が意地悪をして、わざと洞窟探検に出掛けた時。
親に入ってはいけないと言われていたこの穴の、わざわざ匍匐前進が必要な横穴に入ったのだ。
結果、その時、僕とその友達は、幸運にも彼女の箱の蓋を開けさせることもなければ、彼女が離れることもなかった。
箱を傾けないようにして必死に背負い、そこまでして追いかけて来る彼女の様子に、僕は幼心に心底呆れ返ったものだったが――。
「今思えば、僕は彼女が好きだったのかも知れない。だからそんな意地悪をしたんだ」
白い壁に凭れて言った、そんな僕の言葉が通じたとは思わない。
だけれど、同じように壁に凭れて向かいに座った左前の白装束を着たちょんまげの美丈夫は、大げさに頷いてみせてくれた。
きっと、彼の過去に覚えがあるのだろう。僕のような思い出が。
年は、15歳くらいだろうか。
当時の常識では成人といったって、何時だって男はガキだから、こいつも彼女か、彼女の祖先にそういう意地悪をしたのだろう。
結果として僕がその箱の中身を知ったのは18で彼女と再開してからだった。
その年になっても未だ箱を抱えた彼女と、僕は――。
「今思えば、僕は彼女と遊ぶ時、いつも、何処かで君の声を聞いた気がするよ。あの声の主が君であるなら。君はいつも、俺を止めようとしてくれたね」
でも、彼のその行為は無駄だった。
何故なら、人間は好奇心に勝てない生き物だから。
男というのは、好きな子のことを何でも知りたいなんて自惚れた所有欲を持っているから。
そして女は――少なくとも『彼女ら』は、男の全てを欲しがるから。
何で人間は、全てに拘るのだろう。
「今回も……無駄かな?」
天井を見上げた俺につられ、彼も上を向く。俺が散々気になった箱の中は、いざ入ってみれば地下室に続く階段があって、蓋だと思っていたものは透明な天井で。
そこには、彼の子孫の、俺の孫の、思い人の少年が写っている。
> しゃぶしゃぶと湯豆腐
しゃぶしゃぶと湯豆腐
> しゃぶしゃぶと湯豆腐 > しゃぶしゃぶと湯豆腐
しゃぶしゃぶと湯豆腐
お題:赤い恋愛 必須要素:もみあげ 制限時間:15分
「何にも思いつかないから、お題を無視することにするよ」
「あら、せめてどっちかでも満たしてみたら如何ですか? 例えば、もみあげとか」
「そっちかい! 僕としては赤い恋愛の方が好みなのだが……」
「あら、でしたら血の雨が降りますわよ」
「……そうだね、君が恋愛をとか言い出した暁には槍が降るよ」
「そして槍が赤い血しぶきを上げ、世界には血の雨が7日7夜降り注ぐ訳ですわね」
「我々の恋愛で?」
「えぇ、私達の恋愛で……そうしたら、お前も死んでしまうわねぇ」
僕の軽口に彼女はふふふっと笑って、自分の正座の上に乗った黒猫の首筋を撫でた。
「ねぇお前、恋愛に殉じて死ぬだなんて、まぁなんて立派な男ぶりなのでしょうねぇ」
「楽しんでるとこ悪いけど、しゃぶしゃぶは雌だよ」
「まぁ、お前! しゃぶしゃぶと言うの? うふふ、美味しそうな名ねぇ……」
「因みに飼い主の名前は湯豆腐って言うんだよ」
「あら、ごめんなさい。わたくし、湯豆腐は余り好きではございませんの」
「おやツレないねぇ。世界の終わりに血の雨を降らす約束をした相方に」
「ふふっ、お鍋の世界と違って人間には自由恋愛が認められておりますの」
「おやおや、君の恋は鍋と同じで裡に入れば皆同じかい?」
「いいえ、裡に入れたが最後……ゆっくりゆっくり咀嚼して、最後はうっとりと飲み飲むわ」
「それならしゃぶしゃぶも湯豆腐も、この庭を楽しみながらもう少しゆっくり堪能してくれたまえ」
ちろり、と赤い唇から覗いた赤い舌の舌なめずりに喉を鳴らしながらそう言えば、彼女は目の前に広がる庭と膝上の猫から、漸く僕に目を向けた。
「えぇ。もっと味を付けて頂戴。苦手な湯豆腐がもっと美味しく食べられるように」
「お安い御用だけれど、お嬢様はどんなお味をお望みかな?」
「……少なくとも、恋のお味はもう少し薄味で結構ね」
手で促されて隣に座り、猫を撫でる降りをして膝に乗せた手は、すかさずぺしりと叩き落とされた。
> 今年の顔というけれど
未完
今年の顔というけれど
未完
> 今年の顔というけれど
未完
> 今年の顔というけれど
今年の顔というけれど
R15
お題:去年の表情 制限時間:15分
「去年に表情があったなら、一体、どんな顔をしていたろうか」
大晦日から元旦に日付が変わった深夜、抱えた膝に顎を乗せ、そうベッドの上で呟いた彼女の昨年一年は、まぁ何とも悲惨なものだったことを、隣で同じ寝具の間に寝そべり、そんな彼女を見上げた俺が保証しよう。
まず、彼氏でも何とも無い俺と寝ている彼女は、昨年の始めまで、処女であるどころか、キスさえも経験の無い生娘だった。
……というより、まだほんの子どもだった。
「きっと、嘲笑を浮かべてるんじゃと思うのよね」
敏感で、ほんの少し脂肪が付いた、細やかな膨らみの下の肋骨と、その下の心臓を抱え込むように腕を組んで丸まって、疲れた顔をして形頬で皮肉げに笑う。
彼女は、実の所、今年数えで15歳。見る人からみれば、まだほんの子どもなのだ。
そんな彼女は、昨年の成人の日、義務教育の筈の学校を辞めることになりーー皮肉なことにその日、一足先に大人へとなった。
普通の子どもどころか、子どものような大人さえ知らないルートで売りに出され、素敵な初夜というのを迎えたのだった。
相手は屈強な男が三人。
カメラを回されながら。
まぁ、なんて素敵なのでしょうとは、彼女の言だ。
それからの彼女の住処は、繁華街のワンルームへと変わり、家から一歩も出ない生活が始まった。
これで、お姫様のように煽てられて甘やかされたなら、私もその気になったかもしれない。
これも、彼女の言だ。
だけれど現実はというと、客の来ない日は水とコンビニ弁当だけ。
食べ物でない物まで食べさせられて、粘膜で出来て居る場所は全てまさぐられ。
お姫様はおろか、致す以外に使い勝手の無い、そういう道具のように扱われた。
私は、そんなに悪いことをしただろうか。
あちこちを叩かれながら、まさぐられながら舐められながら。
繰り返した問いの帰結が、「生まれたことが悪いことだった」となると気づいたのが夏のこと。
その頃、急にコンビニ弁当さえ届かなくなり、猛暑の中、ついにエアコンまで止まった。
生まれたことは悪いことだろう。
――だけど、しにたくない。
そんな一心で部屋を飛び出した彼女を、向かいのマンションに住む俺が拾って約半年。
彼女は俺のペットとして暮らしている。
> 茨姫と僕
茨姫と僕
> 茨姫と僕 > 茨姫と僕
茨姫と僕
「春秋〜三国くらいを舞台にした、王子の視点から書いた中華風茨姫」の書き出しに出来ないかと思った次第です。
なので、しれっと何処かに続きが出て来るやも。
お題:鋭い道 必須要素:1200字以内 制限時間:30分
そこは、険しい谷底にある一本道のような国だった。
自然の要塞とでもいうのだろうか。
左右を前人未踏の山脈に守られた、ウナギの寝床のように縦に続く、人工百人にも満たないその国は、うねうねとくねる蛇腹の婉曲に、国民の家がある。
急な山の斜面を切り開いて作られた畑と、その、道であり住処である一本道しか無い場所で、けれど、それぞれの家が、道の急な曲がり角に沿ってある山肌と、それによって出来る猫の額程の庭に埋められた生け垣に仕切られている為に、意外と個人の尊厳は守られている。
つまり、前の曲がり角の家から隣の家は見通せないし、道――曲がり角においては民家の庭先――を通過する人間にも、その家の中は生け垣に仕切られて見えない。
なので、ここより国土のある大国のスラム街に群がる貧民よりも、この国の国民の暮らしぶりは穏やかなものである。
食料こそ少ししか取れないが、正面の門さえ突破されねば攻め込まれることはまず無いし、領主たるお国王が、この山でしか採れない薬の材料を集めて輸出しているおかげで、年に一度は贅沢が出来る。
その代わり、国に納め、己らに許された以上を乱獲する密漁には厳しい罰が待っているが、その代わりに人頭税も安く、欲さえ掻かなければ、大国の平民ほどの暮らしは保証出来ると、馬を引く彼女は笑っていた。
そう、この国を更に牧歌的に見せている要素に、道の前に家があるという関係上、土埃を極力抑える目的として、門を潜ったら最後、その内側で乗ることが出来るのは牛のみ、馬を連れる場合は引いてあるかねばいけないというものがある。
いや、正確には『あった』と言い置いた方がいいのかも知れない。
とかく、彼女と俺はその日、海沿いの大国の学都から、ほぼ大陸を縦断してここまで乗って来た愛馬を降り、ポクポクと牧歌的且つ一方通行の城下町を歩いていた。
彼女の帰省に付き合うと言ったのは俺の方だし、俺としては彼女と歩けることに関して、何ら異存は無かったので従った。
彼女には、「坊ちゃんが徒歩で山道を上れるなどとは思わなかったわ」とからかわれたが、そのからかいも含めて、俺には心地良かった。
「おや、公主様じゃないか」
「お帰りなさい公主様!」
などと、道を曲がる度に通りがかる家々から、一声ずつ掛かり、彼女を認めた国民が、次に、俺の方を探るように見て、何か恵心した様子で頷く様は、些か恥ずかしいものだったが。
「……君が、漢族の正装などするから悪いんだ」
「だって、元首に会うのに普段着という訳にはいかないだろう」
「それは、そうだが……」
普段の、麻衣獣の上着と下履き、それに獣の皮で作った防具と馬具という、馬賊のような格好を脱ぎ捨て、腰に袴だけでなく正式な裳まで巻いた、学校の式典でしか見せない娘らしい正装をしていることを棚に上げ、頬を野薔薇の色に染める彼女を存分に堪能し、にやけながら谷底の上り坂をゆったりと登り切った先。
そこには、二つの切り立った山に夾まれた標高の低い丸い山の麓を切り開いて作った平地と、この、谷底の緩やかな山道と、その終点にある低い山しか土地を持たない、この国の王の館が建っていた。
> 私小説の娘
私小説の娘
> 私小説の娘 > 私小説の娘
私小説の娘
お題:小説の中の言い訳 制限時間:15分 文字数:820字
私小説とは言い訳の文化だと、そう言ったのは父だった。
父は、私が人生で初めて出会い、唯一尊敬している小説家だ。私小説を生業とし、口癖は「どんなことでも芸の肥し」であった。
父は己の小説を「現実では言葉に出来ない言い訳」だといい、「口下手な俺には小説しかなかったのだ」と言って自分を蔑んでいた。
「己の恥部を晒すことでしか、自己実現を図れなかったのだ」と、洋酒の入った切子グラスを転がしながら。
けれど、私はそうは思わなかった。
なんせ、片親の私は、高学歴で元華族の傍流嫡男の父が、世間様に恥部を晒すことによって、その質のいい羽織りを一枚一枚脱いで、屈辱を酒の酩酊で誤魔化しながら、父のような恵まれたおつむと生まれを持つ人間のことを知りたがっている人間に向けて、ついに褌さえ脱いで土下座することによって得た僅かばかりの賃金で育てられたのだから。
学者一家の嫡男でありながら、男の甲斐性、芸の肥しと言って嵌まった芸者遊びで流された享楽の白い一雫が私の乳であり、芸者と一緒になり、勘当された後、彼と私を養うことを三年で放棄した母に引っかかれて流れた血が私の地肉となり。
そうして、私と同じような年頃の娘達と、肌を合わせないものの、毎日添い寝して楽しいお酒を飲んで、時折懐から何銭かのおあしが娘と共に行方不明になる、しかもうち1人の母が私の母だったといった内容の笑い話が載った本が、手紙の代わりに、お嫁に行った私の所に便りが届く。
「あんらお父様、その子はお母様に似ていたかしら」
なんていうお手紙などを、父を嫌っている夫の目を盗んで送ると。
「いんや、俺に似たお前とは似ても似つかぬちんくしゃだったよ」
なんてお返事が、私の買う夫人雑誌の連載に載るのですから、まぁなんとお手軽な文通でしょう。
父や世間様は、父の文書を「所詮は小説家の言い訳」だなどと言うけれど。
私は父程に公私の区別なく、人を悪く言うことを知らない正直で気持ちの良い人間など、私は他に知らない。
> ひよこと狼
ひよこと狼
> ひよこと狼 > ひよこ系少女と門下生
ひよこ系少女と門下生
お題:見知らぬ道 制限時間:15分 文字数:669字
「清様、待って下さいまし!」
「……雛子様」
男は数歩を歩み、更に一歩を歩いた所で立ち止まると、一拍置いてその歩数より三歩多い小さな足音が男の後を追い、やがてすぐ隣で止まった。
二人分の足音が止まった道には、はぁという深い溜息と、ゼイゼイという息を整えるか細い呼吸が響き。
やがて、呼吸に合わせてヒラヒラと小刻みに揺れる葡萄茶色のリボンの真上に、二つめの溜息が零れ落ちた。
「もう、俺の後を着いて歩かないで下さいと言った筈ですが……」
「……やです!」
今だ笛の音のように響く呼吸音の合間から間髪入れずに聞こえた返事に、長身痩躯、袴姿の男ーー清史郎は、自分の胸下までしかない背を丸め、登頂のリボンと同じく葡萄茶色の行灯袴に覆われた膝に両の手を突く、自分が先ほど雛子と呼んだ娘に、二人が今現在歩む道の先、辻にある町井戸よりも深い三度目の溜息で応えた。
「あのですね、俺はこれから道場に行くんですよ?」
「知ってます」
担いだ竹刀で軽く肩を叩き、困ったように頬をかく清史郎に、やはり間髪入れずに言葉を返した雛子は、今度こそ息が整ったらしく、華奢な背をすっくと伸ばして真下から清史郎を見上げた。
「私の、お家に帰るんですよね!」
「……正確には、雛子様の叔父君のですがね」
「えぇ、私の下宿している叔父様のお家に、二人でね」
「……」
そう言って、頬に後れ毛を貼り付けたままニッコリと微笑む雛子に、清史郎は今度ほ溜息さえも返さず、代わりに、「二人で」との雛子の言葉への意趣返しのように、歩調を早め、おスタスタと道を歩き始めた。
> ひよこと狼 > ひよこと狼の続き
ひよこと狼の続き
お題:愛の海 制限時間:15分 文字数:835字
もしかしたら半年ぶりに完結したかも知れない。
「待って、待って下さいまし!」
清史郎のそれは男の足での早歩きあるので、着いて歩く年端の行かない少女である雛子の足は必然、速足になる。
しかし、遠目に見かけた清史郎に走り寄った先ほどと違い、息も整え、慣れ親しんだ清史郎の歩みと己のペース配分とを十二分に理解した足並みと呼吸は今度は乱れることは無い。
清史郎を見失わない、だけど己の体力に訴え無い適切な距離で清史郎の後をついて来る。
……こうなると、雛子を捲くことはまず無理であるということを、今から十年程前、よちよち歩きだった頃から、昨年尋常小学校から女学校に上がるまでの間、彼女の叔父である師範の代わりに彼女に剣術を説いて来た清史郎はよく知っていた。
しかも、時刻は役所や会社、学校の帰宅時間でもあり、近頃めっきり少女らしくなった雛子が、子犬のように泥だらけになりながら清史郎に着いて歩いていた頃から知っている近隣の住人が、夕涼みの次いでで、雛子どころか三十路に近づこうという清史郎にまで、幼子を見るような生ぬるい視線を向けて来る。
明らかにていのよい見世物である。いたたまれない。
なので、それこそ彼の憤りと同じくらいに深かろう井戸に差し掛かったところで、清史郎は仕方なく足を止めた。
そして、同じように足を止めると共に間断なく後ろかれ己の腰に抱きつこうとした雛子を避け、体制を立て直される前に小脇に抱える。
「……足捌きも体力も十分鈍っていないのは分かりましたが、着いてきてももう稽古は付けませんよ」
「見て覚えるから構いません!」
キラキラと目を輝かせる雛子に、清史郎は器用も雛子を小脇に抱えて押さえつけたままに溜息を吐いた。
「……女人である貴女に教えることも、覚えることももう無い筈です」
「いいや、沢山ある!」
「……言葉遣いが戻っていますよ」
「あっ!」
むっと口を両手で押さえ、さぁどうだと己を見上げて来る癖は幼い頃から変わらない。
なので清史郎も変わらず、大げさに一度、頭を振ってからその身体を解放し、
「いい加減にしろ、このひよっこ!」
「いたいっ!」
「もう僕に構うな!」
幼い頃の、よく兄弟子に軟派だとからかわれた言葉使いで答え、雛子の小さな額を爪の先で軽く弾いた。
> 身体から始まる女王様系SM
身体から始まる女王様系SM
> 身体から始まる女王様系SM > 身体から始まる女王様系SM
※未完
身体から始まる女王様系SM
※未完
R18 アブノーマルプレイ有り
お題:熱い小説家 制限時間:30分 文字数:1730字
――いつだったか、官能小説家を自称するオヤジに弄ばれた時に言われた言葉を思い出した。
「白紙に文字を刻むことと、若い娘の白磁の肌に白濁を刻むことに、何の違いがあろうか」と。
私はそれに何と答えたか――と考えながら馬術用の鞭を振るう。「ぐぅっ」とくぐもった声と共に跳ねる背中。ぎしりと鳴った、柱に取り付けられた手枷。
私だけじゃない、あらゆる人間の怨嗟や恨み辛み――場合によっては恋情――が白い跡として刻まれた、広く筋肉質な背中は白磁の輝き。その陶器の上を赤い血が滑り落ちる。
それに得も言われぬ興奮を覚え、恐らく以前に指摘された癖と同じように小鼻を膨らませながら、びしり、力一杯また鞭を振るう。
振るえば振るう程に、男の吐く息は重くなり、反対に私の心は軽くなる。
(――それでは、嫌がる娘を踏みつけて解放する白濁と、そんな幼気な娘が恨みを込めて振るう鞭で流れる赤に何の違いがあるというの?)
そう聞きながら、いそいそと私を組み敷いた、胴から鼻まで団子のように丸くて、人好きのする爺そのものの顔をした、作品のネタに詰まって、タコ部屋の女子高生なんて買った官能小説の御大に鞭を振るうイメージ。
ぴしり。
次の一撃は、娘程に年の離れた女編集者に紳士的に接し、自分の原稿を読まれる度に赤面しながら恐縮する御大が、まさか涎と涙と鼻水をいっしょくたに流す己の姪と同じような年齢の小娘の口を、美しい音律を生み出すというふくふくとした手でもって塞ぎ、「ごめんね、いっしょにヨくなろうね、ごめんね」なんて言いながら腰を振っているとも知らず、今日も姪っ子に性的な目を向けているという、見たこともない御大の編集の男へ。
その、恐らく既に喰われたであろう姪っ子の代わりなどという名目で、実際に私を性的な目で見ていた伯父に。
「ぐううううっ!」
その度、遙か昔、中国の后が罪人を焼いたという柱と同じく、部屋の上から下を貫く太い鉄の柱に頬を寄せながら、丸い口枷の間からごぷりと水のように涎を吐き、身もだえする。
――やめてやめて、もう許して。お願い。もう痛いのはいやだ。上手におしゃぶりしますから。おしりも、ゆびのさきもなめますから。ちゃんと飲み込みますから、だからもうやめて、そんな所にそんなもの――
「……っ」
それを見て、時折、罪人を鞭打つ私の耳には鞭の打擲音と混じって、甲高い、幼い子どもの泣き声が聞こえ、力の限り鞭を振るって、もう感覚の無い指先が鞭を取り落としそうになる。
まるで、私が私を辱めた男達になって私を打っているような、そんな錯覚が、自覚は無いが、時折私の手を鈍らすらしい。
「ぅ……」
同じ所ばかり何度も打たれ、もう背中の感覚も無いだろうに、その度にこの男は美しい眉に力を入れ、恍惚と苦痛が入り交じって真っ赤に火照った女のような顔の、唯一吊り目で切れ長の涙目をじっと私に向け、人間の好き勝手に扱われる家畜のように従順に、しかし断罪者のように、己を辱める私をば睨み上げるのだ。
「そんな目で見るな、グズが!」
「ぐぅああああああああああ!」
「こんなものが!! こんなものがあるからそんな生意気な目をするんだ!! あたしを道具みたいに扱う目をするんだ!!」
その瞬間――私の頭は真っ白になり、気付けば、ギシギシと断続的に手枷が鳴り――男はぐったりと手枷に体重を乗せて床に辛うじて膝をつき。
私は、今まで振るっていた鞭を、彼の、男らしくも線の細い、辱められる少女のような足のあわいから抜き取るのだ。
思い切り叩かれたそこが充血しているのは、興奮でか、それとも打擲によって鬱血し、勃起が治まらなくなったのか、ただの娘である私には分からない。
「……一発で出したのかよ、ドMの上にそーろーとか。救いようねぇなぁ」
「うぅうっ……」
「それとも何か? 嬉しすぎてお漏らししたのかよ。いい年して、事務の女に叩かれて?」
舌打ちと共に、ぬめるボクサーパンツの膨らみに汚れた鞭を擦りつけると、期待にか恐怖にか、膨らみは益々大きくなり、私はその隆起が前者によってもたらされると知る。
私はこの男が
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