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永悠君と十和子ちゃん(ながひさくん と とわこちゃん)
> 僕と、トワちゃんのこと
2010年11月11日
僕と、トワちゃんのこと
初出はpixv。
確か、外道幼なじみだか、吐き気のするような邪悪だかの話になった時に書いてみたものだったかと。
トワちゃんによる永悠くんの紹介に詰まって投げました。
永悠君はトワちゃんの存在で狂い、責任感の強いトワちゃんは永悠君が外道なのは自分のせいだと責任を感じています。
……が、彼は生まれながらの外道です。
僕の名前は一都瀬永悠(ひととせながひさ)。今年15歳になる。
好きな物は幼なじみの緋佐方十和子(ひさかたとわこ)、通称トワちゃんなんだけど、トワちゃんには余り好かれていない。だけどそれじゃ困るのだ。
僕の、トワちゃんと出会った幼い頃から今まで続く将来の夢は、世界に僕だけしか頼りのなくなったトワちゃんの手を踏みにじって、この世で一番悲壮な顔を作る事なんだから。
僕の今の夢は、表情と声の抑揚を無くしてしまったトワちゃんにソレを取り戻してあげることなんだ。ね、今の好青年ぽくなかった?
ねっねっ、ぽかったでしょ?
トワちゃんにも、人たらしの笑顔とか、人を惑わす甘言に脚が生えてるような男とか、よく褒めて貰えるよ。
それで、趣味もトワちゃんの事なら何でも知ってるよ。だって好きなんだもん。
焼いた蛙や蛇を食わされて吐きそうになったけどけど、人から貰った物だと思うと粗末に出来なくて健気に飲んでやっちゃった時の事とか。
何十分もくすぐられ過ぎて痙攣して失禁して涙目になった時の情けない顔も覚えている。
何より誰より人が好きな事も知ってるし、僅かな感情や体調の変化だって分かる。
トワちゃんはあれで正義漢でね、木に登って降りられなくなった子どもを助けようとした事もあるんだ。勇ましいだろ?
まぁ、一緒に降りられなくなったから、僕が下ろしてあげたんだけどね。
どうやってって……木の幹を蹴っ飛ばしたんだよ。思い切り。だって、上手く落ちようと思うと受け身取っちゃうだろ。大丈夫、トワちゃんが庇ったから、トワちゃんが腰を打って二、三日家の中を這いつくばって生活するだけの被害で済んだよ。
トワちゃんは虐められっこでね、本当なら学校にも行かなくてもいいくらい心に深い傷を負ってるんだけど、毎日ちゃんと学校に来るんだよ!
何でって、僕が毎朝迎えに行くからさ。
トワちゃんは人の好意を無下に出来ない子だからね、毎朝健気に迎えに来てくれる幼なじみを無下に出来ないんだよ。
それがうわべだけだって分かってても、行きに田んぼの側溝で朝食を全部吐いちゃう事になっても、億に一つ、僕に純粋な好意があった場合を信じちゃう子なんだ。愚かだと思わない? そこがまたかわいーんだよ。
そういえば、まだトワちゃんの外見とか中身の話をしてなかったね。
今から話すね。教えておいたら、君もトワちゃんに痰を吐きかけたり、あの綺麗な髪をわざと引っ張ったりして楽しませてくれるかも知れないからね。
トワちゃんは、背中まである黒い髪で、顔は瓜実型って奴。額は広めの……日本人形や日本画みたいな顔。黒目ばかり目立つ切れ長の一重に、兎みたいにちょこんと付いた鼻筋の通った鼻。白い色の肌。
だけれど、そのどれもかもが、絵で描いたかのように同じ所に固定されていて、所定の位置からは全く動かない。
……なら、さぞかし幽霊画のような不気味な顔をしていることだろうと思うでしょう?
だけども、以外や以外、口数は多くて、ぼそぼそ喋るのが悪い事だと思っているから通る声で歯切れ良く物を言う。
黒目の色なんかはキラキラと星が映るくらい潤んでいるから、トワちゃんのお婆ちゃんなんかは理知的だって褒める。
だけどさ、人形みたいな顔の子が美人で頭もいいって出来すぎだろ? そんなの漫画のキャラみたいで、僕のトワちゃんじゃない。
だから僕は、トワちゃんを人に紹介する時は、無表情のデブスちゃんって呼ぶ事にしてる。実際トワちゃんは女子中学生にしてはやや豊満な体つきだしね。
あと、髪からは藁の臭いがして、いつも汚い制服を着てる、とも言っているよ。実際は、毎日ブラシと消臭剤を掛けて、週末には自分で染み抜きまでしてるんだけどね。
でもね、人って真実を見ないんだよ。面白いでしょ。
表情と愛想がない、しかも臭いとかデブとか言われている。
――にも関わらず、僕みたいな人当たりと顔のそこそこいい男の子に、幼なじみだって理由で傅かれてる同い年の女の子は、多感な女子中学生には無条件で、その辺のゴミより汚く見えるんだよ。
きっと、あの子達の目に映るトワちゃんは、湿気で膨らんだ日本人形や、パンパンに膨らんだ九相図みたいに見えてるんじゃないかな。
あ、九相図ってのは日本画の画題の一つなんだけど、知ってる?
人間がね、死ぬ所模写してるの。トワちゃんのようにお人形さんみたいに白い女の人が、白目向いてパンパンに膨らんでるの。面白いでしょ。
本当、女の子は滑稽で可愛いよ。生け花のお師匠さんやってるお婆ちゃんの所で年中花に囲まれて暮らしてるトワちゃんに、生ゴミ臭いって言うの。毎日とかしてる髪を摘んでカラスの臭いがするって子もいるかな。
だけど、トワちゃんは「しません」って一言言うだけで、泣きも笑いものしないの。そこで、しないもん、臭くないもんとかいって、うわーんと泣いてくれたら面白いんだけどさ。トワちゃんはそんなには、僕に優しくない。
どころか、休み時間に僕の所に来て「嘘を付くと口が曲がると祖母が言ってましたよ」ってわざわざ言いに来るの。
トワちゃんってば、嘘が大嫌いなんだよー。ねっ、可愛いでしょ。
でもさ、世の中にはトワちゃんみたいな可哀想な子が大好きっていう、おかしなおじさんも多いんだよね。先生でも、お婆ちゃんしか居ないお家で育った、変な臭いのするトワちゃんの話を聞いて同情したりつけ込もうとする先生だっていたしね。
でもね、それは大丈夫!
そういう奴はトワちゃんに当たって勝手に自滅してくれるから。
苦労話を聞こうと思って職員室に呼んでお茶を振る舞ったら、逆に夫婦仲を心配されて「私のような取るに足らない生徒を気に掛けている間に奥様にメールを送って差し上げるのが良いと思います」って、お茶をすすりながら抑揚なく言うし。
弱ってる所につけ込めば自分にめろめろになってくれるんじゃないかと付き合っても、トワちゃんは夜の七時以降は絶対に出歩かないし、彼氏からメールが来ようが連絡網が回って来ようが、十時には布団に入っちゃう。
「お前は、俺が一番好きだよな」
なんて頭の悪い口説き文句で、柄の悪い男が馴れ馴れしく肩を抱いても。
「いえ、家族が一番です」
と、怯えもせずに返してその腕を払って、夕飯のお買い物があるからって言って、丁寧に頭を下げる。
大体はここで落ちるし、振り落とされないのは、幼なじみの僕がトワちゃんに彼氏が出来たとか言っちゃえば一発で済む。
そうすると、トワちゃんは付き合ってもいない、近頃妙に絡んでくる友達だと思っていた男に、いきなり往来でグーで殴られたり、携帯投げつけられたりするんだ。
トワちゃんは普通の女の子だから、恋愛ってものにそれなりの憧れをもっている。そして品行方正だから、二十歳までは清い身体でいるつもりなんだよ。
そんな女の子が、自分に好意を寄せてた男に殴られて、クソとかヤリマンとか罵倒されるんだよ。泣かない訳ないよね。寧ろ男性不信になるレベルでしょ。
なのに、そんな時でもトワちゃんは泣きじゃくってくれないんだ。見かねた僕が、ヤリマンコールとか掛けても駄目、やっぱりトワちゃんはトワちゃん。ただ制服の埃を払って立ち上がるだけ。
すりむいても気にしない。
ただ、あるとき車に連れ込まれて何処か遠くの町に連れて行かれそうになった時は流石にお巡りさん呼んだし、僕も鉄パイプで殴りかかったけど。
凶器って呼ぶだけあって素人ががむしゃらに振っただけなのに、うっかり主犯格の額を割ちゃったんだけど、トワちゃんが、先に鉄パイプを持ち出したのは相手って言ってくれたから僕は平気だったよ。
だけど、僕はその時、トワちゃんに平手を喰らわされた。べちんって。
「私を陥れるのは勝手ですが、その下らない趣味の溜に、私の唯一無二の幼なじみを、犯罪者にするのだけは止めて下さい」
そう言われて僕は――脈ありかなと思ったけどやっぱり駄目だったや。いや、反省はしたよ? その台詞をトワちゃんが泣き笑いでもしながら言ったら、多分僕、泣いたんじゃないかな。知らないけど。
え、何で僕がそんなにトワちゃんを泣かしたいかって?
違うよ、泣かせたいんじゃない。言葉は正しく使ってよ。
僕はただ、トワちゃんが、絶望に噎び泣いて、僕という最後の希望まで見失って、大好きな人間に心底絶望して、顔と言わず身体と言わず出るだけの液体を出して垂れ流して身体全体で泣いている所を、背中から抱きしめてためつすがめつ眺めてデジカメで写真を撮って、一生分の涙を流しきるまで見届けたいんだよ。
だってね、トワちゃんこそ僕の生きる希望で、正義で、常に正しくて、僕にない物を持ってる子なんだから。
実は僕、三歳まで人の心ってものが分からなかったんだ。
これもラノベか何かみたいで出来すぎだから話すのやなんだけど、実際は僕、トワちゃんより一個上なんだよ。
それで、健康になってから最初の友達がトワちゃんだった。
あの頃のトワちゃんは良く泣く子で、僕はそれが不思議で、毎日のように泣かせていた。
あれはまだ、お気に入りのボールとか隠すくらいの可愛い頃。
木に吊しても泣くし、毛虫を頭に乗せても泣くし、半纏の背中に雪の固まりを泥と一緒に突っ込んでも泣くから、寧ろ何をしたら泣かないんだろうと思ってね。
僕は無い知恵を絞って考えて、色々な悪戯を仕掛けてみた。
ある時、勘違いで近所の人に怒られたら悔しい悔しいと丸一日掛けて泣いたから、きっと人間関係の方が効くのだろうと、トワちゃんの友達が全部絶交するよう、嘘の噂を流して仕向けた。
まぁ、トワちゃんは蛙を生のまま食べるとか、蛇の鱗が生えた蛇女だとか、今思うと可愛い嘘だけどね。
だけれどそれは、段々エスカレートして、トワちゃんを幼稚園の友達と絶交させたり、トワちゃんが言う訳ないような口汚い悪口を乱暴な子に話してトワちゃんを殴らせたりするようになった。
トワちゃんは、いつものようにワンワンとは泣かず、ただ唇を噛みしめて、唯一の友達になってしまった僕の手を痛い程握りしめて、静かに涙を流し続けていた。
そのことで、僕の本能が「もう一押しだ」と囁いたんだ。
――もう一押し、最後に残った僕が酷いことをしたなら、もうトワちゃんは泣くことも忘れる程のショックを受けるんじゃないかって。
それで、あるとき――何だったかな、喧嘩して、トワちゃんが大事にしていた玻璃のオルゴールを持ち出して、目の前の庭石にぶつけて割ったんだよ。
ステンドグラスの綺麗な奴でね、破片が四方に飛んだんだ。
そしたら普段うわんうわん泣くトワちゃんが、ガラスだからけのその敷石の手前にべたんと膝を付けて、瞬きひとつしないで、雪解けの水がしみ出すように、ぼろぼろと涙を零して泣いたんだ。
その時、僕の心臓に、きゅうんとした物が突き抜けた。立って居られない程に膝がぶるっと震えて、同じように座り込んでしまった。
黙って涙を流しながら、両手を傷だらけにしながらオルゴールの破片を集め出したトワちゃんに、胸が高鳴って、今にも叫び出しそうで、お腹の奥がゾクゾクするような感じがして、僕は今度は何の病気に罹ったんだろうと思った。
そのオルゴールを集める手で、自分の何かも掻き集めて欲しいと思った。この子がもっとボロボロになった所を、抱きしめたいと思ったんだ。
それが愛しさとか性欲とか、何かそういう名前が付くより前に、見つけた僕の両親が半狂乱になって、二人で病院に連れて行かれたけど。
後に、そのオルゴールが今は居ないトワちゃんの両親からの誕生日プレゼントだってのを聞いて確信した。
トワちゃんの手から、そういうプレゼントとか人脈とか言う、あのオルゴールのようにトワちゃんの手から大事な物を抜いて行けば、またあの顔で泣いてくれるんじゃないかって。
僕が、人が大好きなトワちゃんから、全ての絆と希望を奪い取って、何もなくなった背中を蹴り上げて突き飛ばして、自慢の髪や身だしなみにさえ気を使えないボロ雑巾のようになって僕だけに縋り付くのを、一回谷底に突き飛ばしてから、誰よりも愛しく抱きしめたいと思ったのはその時からだ。
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