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二人の永遠の夏休み
> 蛇足編 > ちぃちゃんの話 > 1
2013/02/13
1
エロと説明不足を補う蛇足編です。
「うーちゃん、大丈夫……痛いの?」
「ちぃちゃん……ちがうよ、ぼくは、ゆうちゃんだよ、いってごらん……ね?」
「……うーちゃん?」
「ちぃちゃん……ぼくの……」
俯せに倒れ、汗の滲んだ額を撫でるちぃちゃんの手を掴んで不安そうに瞳を揺らしたうーちゃんは、そのままいつものように、糸が切れるかのように眠りについた。
うーちゃんには、数ヶ月に一度くらい、急に発熱して倒れ、動けなくなる時がある。
それは丸一日の時もあれば、ほんの数時間のこともある。
共通するのは、その間、暫く意識が錯乱し、四肢が麻痺するのか、布団の上で蛇のようにもがき苦しみ――唐突に糸が切れたように眠りにつくということ。
その後、血の気が引いた青白い顔で、死んだように動かないうーちゃんは人形や陶器の置物のようなのに。
その身体は汗でベタベタになって、下肢は、何故か精液で汚れている。
ちぃちゃんは、赤ん坊のように丸まって汗みずくで眠るうーちゃんを、いつも自分がして貰うようにお湯で濡らしたタオルで拭いて清めて着替えさせ、その隣に乾いたタオルケットを敷いて横になる。
苦痛と快楽は紙一重だと言うけれど、うーちゃんの場合、どちらが勝った結果なのかはちぃちゃんにはよく分からない。
局地的な我慢の聞かないような止めどない快感が――ちぃちゃんもうーちゃんの手や舌や挿入で何度か経験したことがある――苦痛になってうーちゃんを責め苛むのか。
はたまた、その身に起こる何かによる余りの苦しさに、身体が――人間にない強靱な身体が――防衛本能を働かせてそれを快感に変えるのか。
ちぃちゃんには分からない。
出来ることもない。
出来るのは、苦しむ彼を隣で見守ることと。
「……うーちゃん?」
安らぎ、死体のように眠る彼が、早くこちらの――ちぃちゃんの居る側の世界に戻って来れるようにと願いを込めて、抱きしめて、名前を呼ぶことだけ。
「うーちゃん……」
だけれど、うーちゃんは、呼んでも、答えない。
そして、こんな時。ちぃちゃんがいつも思い出すのは、あの時のうーちゃんだ。
十代の頃、初めてちぃちゃんにこの症状を気付かれた時の、自分の汗と体液で汚れた身体を見下ろして、今にも泣きそうな顔で「ごめん、ごめん」と膝を抱えて呟き続けたうーちゃん。
「……好き、うーちゃん」
ひくりと震える瞼の下で、ちぃちゃんが背中を撫でても目覚めないような深い眠りの中で。
十四年という年月を経ても、作り物のように、作りかけのように、十五歳のままで止まった肉の器の中で。
あの時のようにうーちゃんが――うーちゃんの心が、膝を抱えて蹲っているような気がするのだ。
うーちゃんを汚すばかりのちぃちゃんを、「汚したくない、汚したくない」と泣きながら。
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