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朱を交わらせ君が為
> わたくしとロメオ様の夢 >
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性描写有です。
彼の手は、下腹を大きく包むように、守るように、握り込むように掌を僅かに丸めてそこに――私の中、私の知らない伽藍堂はそこにあるのだと、それが昔に聞いた子を孕む為にある袋だということを、私は初めて理解したのでした――しっかりと置かれておりました。
「ねぇ、言っておくれ、ジュリエッタ。僕を――僕の命も肉も魂も、君の内側で作り直してくれると」
「あ……」
次に彼は、下腹の中からぐちゃりと指を引き抜くと、そのぬるつく指を私の股の間で拭い、その電気に跳ねた私の頭を抱き寄せ、まるで親が子を甘やかすように甘くとろけていて、だのに母に子が哀願するかのように必死な声でそう言いつのり、下半身を密着させるようにして、私に強く覆い被さりましたした。
「僕の全てを、永遠に、君の物にしてくれると」
実の所、そう言った彼の言葉の半分も、その時の私は理解出来ていなかったように思います。
だけれど、それがどういうことか、彼の、愛しい人の熱の失われた掌に覆われた私の子袋は、それとは対象的に、何とも胸が焼けて潰れてしまいそうな程の愛しさと――形だけは笑みを作った顔の中、切れ長の目の奥に点る炎に炙られた心は。
一途な恋心と口づけの仕方以外に何も知らない、ほんの小娘でしかない私の『女』の部分は、その言葉の意味を本能で理解していたのかも知れません。
「――ロメオ様。私は、あなたのジュリエッタは、必ずあなたを生き返らせます。この貧相な身体で十月十日を愛しんで、またあなた様としてこの世に送り出してみせましょう」
だってそうでなければ、いくら夢のような世界のことといっても、このような芝居掛かった殊勝な台詞が、まるで詩を諳んじるかのようにつるりと、本当につるりと、私のような取るに足らない小娘の口から零れるようなことは有るでしょうか。
「嗚呼っ……! 麗しい僕のジュリエッタ! どうか、夢から醒めた現でも、どうか僕を受け取っておくれ!」
それと共に、ぽろりと一筋の涙がこぼれることが――その涙を、未だ私の子袋が零した滴に濡れた彼の手が拭い、その甘酸っぱい臭いのした、ぬめぬめとした指の痕を、まるでこれ以上愛しい物など無いとばかりに破顔した彼の舌が丹念に舐め取って行くだなどということが。
「えぇ、えぇっ……! 下さい。あなたを私に……!」
その舌の動きを追う度に、密着した腰が、びくり、びくりと跳ね上がるだなんてことが。
このように、まるで、石灰で引いた線と線とを踏み越えるように、小川を「えいやっ」と飛び越えるように簡単に、己の身に起こりえるだなんて、私は今まで想像もしたこともありませんでした。
こんな……背徳的且つ卑猥なことが、今までロメオ様以外の男も知らず、ロメオ様との逢い引き以外に浮いた話も縁談も一切無かった。
ただの小娘でしかない、己の身に起こることがあり得るだなんて。
「あぁ、やっと――!」
私の上に覆い被さったまま、身体を起こし、徐に学生服の上着を脱ぎ捨て、下半身の衣服を僅かにくつろげた彼が感極まったような様子で何かをおっしゃいました。
だけれど私は、殆ど吐息混じりで耳をくすぐるソレに、上手く耳を傾けることが出来ませんでした。
何故ならば、彼を追うように僅かに頭を起こした私の意識はといえば、そのせいで覗き込んでしまった、彼がぐっと割り開いた己の頼りない太股の内側に――今まで彼が何かを探るように指先を動かしていた伽藍堂へと吸い込まれていましたから。
「つっ……」
彼が覗き込み、息を飲んで喉を鳴らした場所がどの様なさまであるかは、長椅子の上に仰向けに転がされた私には見えません。
だけれども、私は知っておりました、
彼が私の太股を恭しく掲げ持ち、大きく開かせたそこには――私から見えないそこには、ぬめぬめと蜜に濡れた、鮮やかな肉色に染まった花が、これみよがしに、猥雑に咲いている筈なのです。
彼の指をくわえ込み、ぐっぷりと音を立て、ぬめぬめと酸っぱい臭いのするぬめりを滴らせておりました場所は、彼が己を宿して生まれ代わらせて欲しいとまで言う場所は、そうそう居心地の良さそうな場所ではなく。
実の所、ただの肉色の、私でさえも己の内にそんな物が在ったのだなんて知らなかったような、ぬめぬめと、見ているだけで何とも心のざわつく、猥雑な造形をした場所――私はそれを、遠い昔、父の実家で土蔵に迷い込んだ時に見たことがあるのを思い出したのです。
――男女が睦み合う、春画として。
嗚呼、そうです。アレを見た時、何だか分からない絵だというのに、妙にお尻の辺りがざわざわして、太股を摺り合わせながらも、気付けば食い入るように見つめてしまいました。
(何故、こんなことをするのかしらん?)
そんな疑問と共に眺めたその絵の中で、よく分からないことをしていた男女は――やっぱり今のような体制で、男性が女性を組み敷き――殆ど茶色と灰色で刷られた絵の中で。何故だか女人の股の間だけがぬめぬめと、何度も、何度も肉筆で辰砂を重ねたような鮮やかで光沢のある赤色で色付けされていたのです。
そこに大きな朱色の花を咲かすことにこそ、この浮世絵の持ち主の心血が注がれでもしたかのように。
後に、ソレが、どのような行為であるのかを知り、何故だか見てはいけない物を見てしまったかのように感じ、私はそのことを今の今まで忘れていた次第だったのです。
――だけれど、それが私の生きる世界の裏側で、常日頃に行われているということは、知識として分かっては居るつもりでした。
通りかかった縁日に立つという小さな小屋で夜な夜な行われていると噂には聞く下世話な見世物として。
女学生が近寄ってはいけないと言われるいかがわしい茶屋や、殿方の遊びに行く弓引きの店の二階で行われていると噂されることが。 そう――この段になってやっと私は、どうやら己が、そのような噂と同じようなことになろうと気付いたのです。
「あっ! いっ、いたい! 痛いです!!」
「はっ……あぁ、ごめん、ごめんっ……」
そうしてソレに私が気付いた時。
一度離れた彼の身体は再び私の上へと重なって――大きく咲いた肉色の花弁の、自分でも触れたことのない内側に、まるで囲炉裏で焼いた火鉢を内臓に突っ込まれたかのような、じわじわと肉を焼かれながら、焼けた先から肉を刮げ落とされて行くような、火傷とも擦り傷とも付かない痛みが走ったのです。
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