> わたくしとロメオ様の為に > 11
11
自慰描写があります。
 目を醒ました時、私は昼間お医者様に見て貰った時のまま、肉色の襦袢ではなく、着古した褐色の浴衣と半幅の帯とを身につけて、寝台へと青向けに転がっておりました。

 ねえやも、お父様お母様も、お医者様も――先ほどまで熱心に私を愛して下さっていたあの人もおらず、ただ、閉め忘れた窓からの風に翻るレエスのカーテンの向こうからこちらを覗き込む満月に照らされて、ただ、一人きり。

 いつもこの時間にこの窓を控えめに叩き、バルコニーに座って控えめに片手を上げて見せる人は永遠に私の所に訪れない。何故ならあれは夢だったのだから。

「ううっ……ひっく、うぁ……うあああああんっ……!」

 それを実感した途端、私は仰向けに天井を見上げたまま、幼子のように慟哭し、涙を拭くどころか寝返りさえ打たないままに、わんわんと、先ほどまでの幸福な夢の中での痛みに泣きじゃくった時以上に泣き叫び、シーツを握りしめ、ただひたすらに涙を零し続けました。

 ――今度こそ、泣き死んでしまえと言うように。

 幸福や愛情というものは、最初から与えられないこと以上に、突然奪われること以上に、一度気まぐれに与えられて取り上げられる方が何倍も、何万倍も苦しいのだということを、この時私は初めて知りました。

 そうして、月光を跳ね返す白い漆喰の天井を仇敵のように睨み付け、仰臥したまま歯を食いしばり、唇を噛みしめ、泣き続けてどれくらい経った時でしょう。

「ひ……あんっ!」

 泣きじゃくりながら全く意識せず、僅かに、ほんの僅かに、手足を曲げるか首を傾けるかの身じろぎをした途端、私の身体の中心を貫くように、痛みとも痒みとも付かない疼痛が、確かに駆け抜けました。

「う、ぁ……っ!」

 ともすれば、身体の奥――臍の下の内臓から起こった、剥がれかけたかさぶたや、治りかけて皮膚の盛り上がった火傷の跡から起こるようなその痛みと痒みの混ざり合った疼きが一体何処から起こっているのか、今の私にはちゃあんと分かっておりました。

 それは恐らく、辰砂を塗り込めたように真っ赤に咲いた、私の脚の内側の花弁から、その内側にある、子を孕む為の、彼を迎え入れる為の場所から起こったのです。いいえ、そうに違いないのです。そうでなければおかしいのです!

「あ……ぁ、あぁあっ!」

 ――そう気付けば、後のことはもう、決まっておりました。

 私は、ここ数日碌に物を食べて居なかったこと、そして今し方まで全身を振るわせ、泣き死んでも可笑しく無い程に泣きじゃくっていたことを差し引いても、まるで激しい運動の後のように重怠い身体を、その芯から響く痛みにも構わず弾かれたように起き上がらせ。

 蹴り上げるように布団を剥ぐと、浴衣の裾を脚が全て剥き出しになるまで絡げて、両膝を深く立て、まるで獣がそうするかのように股をあられもなく開き上げ、左手でなお一層に開かせると、右手の指を揃えて、彼を咥えただろう口を大きく開けている伽藍堂へと差し込みました。

「あ、ぁんっ。あぁっ、んんんっ……」

 あの幸福な夢の残滓を、彼との交わりの証を探して指先で無遠慮にまさぐる、指でまさぐるその間も――その間も、私の股の間はズキン、ズキンと断続的に疼痛を響かせ、それを自覚すればする程に、私の背筋を通り、先ほど夢の中で確かに感じた電気に痺れるかのような甘い悦びが、再び駆け上がり。

 気付けば私は、彼がそうやったように、ざらざらとした毛に覆われたそのあわいの中と外を、何度も何度も往復させておりました。
 そうして――嗚呼そうして、ついに見つけたのでした。

 ぐちぐちと指先に蜜と共に絡みつく、淫らな花の内側、ロメオ様が発見した、私の身がグズグズととろけ出す場所を! 
 私の見ていたあの夢が、夢では無いという確かな証拠を!!

「あぁっ、ロメオ様……ロメオさまっ! ああああんっ!!」

 そこを押し込むように素早く数度刷り上げると、不思議なことに開いたままの脚に急に力が入らなくなり、腰が抜けたように脱力して、私は荒い息で獣の言葉のような声を叫んだ後、再び寝台へと倒れ込み、びくんびくんと不随意に太股を痙攣させました。

 きゅうきゅうと歯のない口で噛みしめられるように締め付けられる指を引き抜き、月明かりにその手を透かすと、嗚呼やはり! その指先には赤い色の僅かに混じった甘酸っぱい匂いのする蜜が滴っておりました。
 あの時ロメオ様が私から溢れ出させたのと同じ、あの蜜が……!

「あぁ……ロメオ様、ロメオ様っ……!」

 やはり、アレは夢ではなかったのです。
 私はやはりロメオ様の物になって、そして――嗚呼そして、誓ったのです! 彼の全てを私の物にすると、私が彼の産みの母であり彼の物になると!!

「待ってて、待ってて下さい……すぐに迎えに、参りますから……」

 ぽろり、と。
 不意に目から零れた嬉し涙をそのままに、私は蜜にいやらしく濡れそぼった指先をまるで水飴を食すように舌で舐りながら身を起こしました。
 暗く、さみしい小屋の中で、私を――唯一無二の恋人を、己の物である女を、彼の母となる私を――待っているであろう彼を、いつもの逢瀬とは反対に、今度は私から直接に尋ねる為に。
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