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13(死姦有)
 そうして、彼の脚の上へと膝を落として脚を開いて跨って――それは丁度、夢で彼が私を組み敷いた時と殆ど同じような体制でした――口は、乾いた血のべっとりこびりついたズタ袋に向かい、何度も何度も接吻を落とし、時に頸に残った血の跡を舐め取り、その何ともいえぬ生臭さを舌で転がしながら。

 手は、段々と装束の袷を開き、いつも私を抱えて下さった胸板を撫で廻し、そうして遊ばせる指が探り当てた尖りを指先で摘み上げたり指先で引っ掻いたり。時折太股の上にて指先でくるりと円を描いたり。

「――っ、――ァ、――……ん」

 そのような悪戯を何度も繰り返しながら、彼から教え聞いた呪文を唱え続けました。

 すると不思議なことに、温かさを失った死体である筈の彼は、まるで教室の長椅子の冷たい木肌に、座っているうちに熱が移って行くように、段々と私の熱が移って、生き物らしい弾力は全く失って。
 まるで、冷たい石のようであるのに、人肌のような温もりだけが蘇って来るのです。

 そうして、彼の身体が温もりを帯びて来る程に、私の身体には、夢で彼に与えられた物か、ソレ以上の熱が生まれ、寝間着の浴衣を着ていることさえ煩わしくなる程に、汗みずくとなって、身体のあちこちが疼くようになりました。

 そうして――嗚呼、本当に不思議なことに。
 つい先ほどまで、嘔吐く程に気持ちが悪い臭いであった筈なのに。

 今の私には、彼の流す血の臭いが、彼の肌が温まることによって、まるで香木を香炉にくゆらしたかのように立ち上る、生き物の腐って行く時特有の、悪くなった卵のようなあの臭いが。

 もしも薫風というものに本当に匂いがついているのなら、こうであるに違いないと、そう確信できるかのように。

 得も言われぬ芳香のように感じられて、彼の全身を撫で廻し、乾いた血を口にする度、鼻腔から肺一杯に腐乱臭を吸い込む度に、まるでお正月に屠蘇を舐めた時のように、どうしょうもなく酩酊して、もっともっとと求めてしまうのです。

 そうして、気付けば私は、己の浴衣から帯を抜いて諸肌脱いだまま、同じく下半身にだけ丸まった装束を残したのみとなった彼の死体に、布団に突っ伏すかのようにぴったりと重なって。

 顎の上まで捲ったズタ袋に鼻先を突っ込んで、膿んだ頸の傷から彼の乾いた血をば直接じゅるじゅると吸いながら、疼き、立ち上がった胸の上の突起を、執拗に抓ったり擦ったりするうちに鬱血し、同じように立ち上がったらしい彼のソレに擦りつけながら身体を揺らし。

 更には彼の膝を己の両脚で挟み込んで発情期の犬のように腰を揺らし、彼の味と芳香とを身体全体で楽しみながら、同時に、己の身から立ち上る香を、彼の身体に擦りつけておりました。

「じゅっ……じゅるっ……ぷはっ。……――っ……ん」

 そうして、私の肌から立ち上るいやらしい生き物の臭いと、彼の身から立ち上る、厳かで私を何処までも興奮させる死者の臭いとが混ざり合って一層に身を疼かせる香と化し、彼の血を、身を一心に舐め吸う私の口だけでなく、彼の膝の圧迫により、気持ち悦く痺れだした腰の奥の伽藍堂が、彼の身をくわえ込もうと、ぐちぐちと音を立てて涎を垂らしだした頃。

 腰を押し付けて揺らすうちに、私は――はたと気付いたのです。

 膝を立て、腰を揺らすうちに、彼の脚の間へとわりこませた私の臑が揺れる度、段々と当たる堅さと面積と熱さを増やして行く、熱の存在に。
 ――夢の中で、腹の奥で感じた焼け火箸の熱さと、まるで家の基盤に槌で叩き込む棒杭のような質量を持った、彼の物に。

 それを認識した途端、私の中に沸き上がった衝動を己の裡で理解するより先に、私の手は、気付けば、彼の亡骸の上に相変わらずに伏したままに、僅かに腰をずらし、それに右手を伸ばしておりました。

「あふ……あつ、い」

 それが、最初に思ったことでした。
 ざらざらとした木綿越しに、掌を伏せるようにして握り込んだにも関わらず、それはやはり火傷しそうに滾っており、その形を確かめる為、下に、下にと這わせた手をぬるりと湿らせました。

「あっ……やだっ!」

 まさか、私という重しが常に腹に乗っているせいで、お腹が圧迫され、尿でも漏れてしまったのかと、私は相変わらず彼の血に焼かれ陶酔していた身を起こし、濡れて下肢に張り付く彼の衣を確かめました。

 けれど、そこにはまるで無色の染みがあるだけで尿のような臭いなどはせず――寧ろ、何処かで嗅いだことのあるような、死体の生臭さとも、血の臭いとも全くもって違う臭いがありました。

 すぐにそれが、何時だかお父様のご用事で連れて行って戴いた港の、腐った魚などを投げ捨てていた堀から漂った臭い――つまりは磯の臭い――に似ていることに気付きました。

(……男の人も、女のように下肢を濡らすのかしらん?)

 そう思うと、好奇心の方が勝り、私はそっと、彼の腰の所で固まっていた装束を緩め、濡れて赤黒い棒のような輪郭に張り付いている布を、洗い張りした薄絹を剥がすようにして、そっと、そっと捲ってみました。

 ――そうして、剥がれた布を引っ張った拍子に、ぴん、と撓って眼前へと現れた物を真ん前から目にし。

「あ……っ……!」

 私は目を剥き、大きく息を呑みました。
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