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14(死姦有)
 目の前に現れたソレはといえば、なんともいえぬ形をし、私の指の動きに、ぶるり、ぶるりと。寒さに震えより一層膨らむ冬の雀のように震え、先端の孔へと溜まった滴を四方に散らしました。

 頭に傘でも被ったかのように、頭のぷくりと膨らんだ、竹の子のように雄々しくて、網傘を纏った茸のように血の流れを浮き上がらせた、ソレを確かに私は見たことがあったのです。それはあの浮世絵で、辰砂で塗り固められた、女の股の間の華を、まるで覗き込むように、嗚呼確かに描かれた男性の身体に描いてあったのです。

 ――そうです、私は生娘であるというのに、ちゃんと分かっていたのです!
 私の辰砂の色をした華に、蜜でぬめぬめと濡れ、現実でも私の指を蛸の吸盤や幼い頃に指を入れた磯巾着のように吸い付いたそれに、突き入れられたのが。

 痛みと未知の刺激との間で泣き叫んだ私を虐め、押さえつけて犯したものが。

 この、まるで殻から引き出された軟体生物のような、グロテスクでありながら何処か哀れな杭であったということを!

 そうして、それを胎に受け止めて、そうして私は彼をば正しい意味で手に入れるのだと、私は分かって此処へと来たのです。

 だから、私の次にすることは、この、納まるべき殻から引きずり出されたような哀れな生き物の上に、殆ど羽織って居るだけのようになった浴衣の裾をはしたなく絡げて跨ることなのです。

 命の絶たれた身体の上で、治まるべき術も納まるべき場所も無くして、所在なさげに震える『彼』を、私の内側にある、赤く咲き、くわえ込んだ己の指をも、きゅうきゅうと締め付ける伽藍堂に、招いてあげれば宜しいのです。

 だけれど嗚呼、まじまじと、哀れな『彼』を見下すうち、どうしようもない哀れみと、もっと所在なさげに震えさせてやりたいという、どうにも尾ていの疼くような甘やかで意地悪な気持ちと――同時に、哀れさと同居する何ともいえない愛しさ――を抱いた私の次にしたことといえば。

「ふふっ……お前、そんなに私に入りたいのかい?」

 そう囁いて、未だ震える『彼』の頭の上に、その持ち主であるロメオ様と逢瀬の度、目を合わす度に交わすような、激しく、互いの境界線を犯し尽くすような物でなく。

「おぉよしよし、ね、そんなに震えないで、いい子におし……んっ」

 別れ際、それを渋る私にいつもロメオ様が私の頬や額に落としてくれていたような、まるで頑是無い幼い子どもを寝かしつけるかのような、柔らかな、唇と、つるりとした先端とが触れ合うだけのそれでした。

 ――にも関わらず、彼は、その小さな口づけにさえ反応し、ブルブルと震えるものだから。

「うんっ……うっ、はぁっ……んちゅっ、ちゅ、んくっ」

 気付けば『彼』の震えを止めようと、両手で強く握り込み、先端と言わず、筋の浮いた身の部分に、その下で震える袋のような場所に、震えながら浮いた玉のような汗に、より黒々と浮かび上がった血管に。

 何度も何度も口づけを落としつつ、時に舐め上げ、時に少しだけ舌を出したまま、ぞろりと擦り付け――と、慈愛に見せかけた色々な被虐を、まるで残酷な遊技を楽しむ稚児のように、夢中で仕掛けておりました。

 ――そうして、どれ程の時間没頭していたのでしょうか。

 垂れた滴を追って傘の下を舐め上げた時、独特のえぐみと共にビリビリと背中を駆け上がって行った電流と、ぶるぶると身を反らしながら小刻みに震える『彼』との動きが殆ど同じになったその時。

 漸く正気に戻った私が口を離して改めて見下ろした『彼』は、己の垂らした滴と、私の涎とに塗れてイヨイヨ軟体生物そのものの姿でてらてらと輝きながら、ぴくり、ぴくりと震えていた先ほどとは比べようもなく、今にも泣き出しそうな子供のように小刻みにプルプルと震えていたのです。

 すると、私の身のうちの華も、それと呼応するように、きゅう、きゅうと脚の間で引き絞られるのがはっきりと分かりました。

「……おいで……。私のロメオ様……っ……!」

 そうして、私は漸く、『彼』を――誰よりも愛しいロメオ様の分身を、私の華を容赦無く散らす杭を、私の胎に彼を与えて下さる物を、己の腹の奥へ、奥へと、飲み込むように迎え入れたのです。

「はひゅっ……! んくっ、ぐっ……はぁああっ!」

 押し上げられるその感触を、なんと例えたら良いのでしょうか。まるで間違って大きな飴を呑んでしまった時のように、涎を流し何度も喉を鳴らしたのは、私の咽喉でしたでしょうか、それとも腹の中だったでしょうか。

 ズルズル、ズブズブと沈み込む度に、これ以上は無いのではないかと思うよりも奥に、容易く進む杭に串刺しにされながら、まるで昔お請で聞いた地獄のように。

 焼けた鉄で腹から喉を串刺しにされているような、頭を真っ白に染め上げるようなその感覚は、私にとって苦しみだったでしょうか。それとも強すぎる快楽の形であったのでしょうか。

 ただ機械的に、上下に刷り上げて居た物を、子を孕む程の奥に押し付けたまま、彼の冷たい胸に手を置いて、魚のように腹を反らして押し付けると、頭が真っ白になり、腰が砕けそうになると気付いたのは何時だったでしょうか。

「はっぁ、あっ、あっ、ロメオさ……ま、はやくぅっ……」

 ただ確かに覚えていると言い切れることは、やがて私の腹に浴びせかけられた物は夢で感じたよりも遙かに熱く、その飛沫は彼の唇が私のそれを割り、攻略しようとする時よりも激しく私の深い場所を打ち。

 更にそれを受け取った私の胎はといえば、情熱的な接吻を受け、口一杯に満たされる物を夢中で嚥下する時のように、彼の舌や指先をを幼子のようにしゃぶる時のように、ごくり、ごくりと、美味しそうに内側を蠢かせたのでした。

 ――その時になって、えぇ、呆れたことに、私は漸く分かったのでした。

 彼の身に命が宿っていた時、私達が――いいえ、恐らく世に言う恋人達というものが――戯れに繰り返して来た接吻も、抱擁も、互いの指先に零した水飴など舐め合うのも。

 ――全ては、この一瞬を知る為に、女が己の半身を身の内側に迎え入れ、孕むことによって、好いた男を永遠に手に入れる為にあるのだということに。

「あっ、ああっ……あっ、ロメオさま……! 私は間違いもなくあなたのもので、あなたはやがて間違い無く私の物になるのだわ」

 私は未だ、僅かな身動きにさえ痺れて腰が抜けたようになる身体を持て余しながら、それでもズルリと這い上がり、未だ熱いロメオ様を半分だけ身の内にくわえ込んだまま、顔の半分を隠すズタ袋越しに、何度も何度も接吻を落としたのでした。

 今は今晩限りの別れだとしても、やがてこの薄く頼りない腹の中で育まれて私の物となる、彼の秀でた額に、鼻筋に――今は濁って虚ろに開かれているだろう――いつもは磨いた玉のように私を写し出す瞳に、私とロメオ様とを永久へと引き裂いた頸にぱっくりと空いた傷に。

 狂ったように幾度も幾度も接吻を落とし、腕を回して抱擁し、いつの間にかまた、無心に腰を揺らし、喉を反らし、浅く眠っては起きて、それを繰り返したのでした。

 そうして、『所有』の快楽に酔いながら、幾度頭を真っ白にし、身を押し付け、彼を所有したことでしょうか。

 壁に、天井に無数に開いた穴から射す月光が朝日に取って変わる頃、その清浄な空気に映った己の肢体は、白濁とした液体や血液にドロドロと塗れ、何とも似つかわしくない程に汚れておりました。

 私の浴衣も装束も、背中で落とした洗いざらしの髪までもカピカピと乾いたソレと、ロメオ様の血とで紅白に彩られ、これでは果たしてどちらが死体であるのか……そう考えて、なんとも言えず笑いが込みあげて来ました。

「ふふ……おそろい、ですわね」

 そう言った私の言葉は、掠れて殆ど声になっていなかったことでしょう。
 だけど、彼の上に折り重なるように頽れながら、その一言を言ったことは確かに覚えて居るのです。
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