> わたくしとロメオ様の夢 > 6
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R15くらいです。
「そう……先ほども言った通り、確かに僕は死んだ身だ」

 再会から、どれくらいの時間が経った頃でしょうか――。

 彼が私の喉に額を預けるようにしてそう言った時、気付けば私は長椅子の上に仰向けにひっくり返り、羽織っただけの襦袢も、肘の辺りまで落とされて、一糸まとわぬ身を露わにしたまま、ロメオ様に組み敷かれておりました。

「だが、だからこそ君に、愛しい君にしか願えない頼みがある」
 「頼み……で、ございますか?」

 そう答えた私の声は、まるで女学校での運動の時間に、近頃新しく授業に導入された庭球で何度もコートを走り回って、何度も球を打った時のように息が上がり。

 それがとても恥ずかしくて――私を組み敷くロメオ様の、目ではなく顎先の辺りを見上げながら、ようよう発したその言葉も、酷く息が上がって掠れておりました。

 そうして――何故だか、見下ろされた私の頬に掛かるロメオ様の息も、温度こそ冬の木枯らしのように冷たいというのに、やはり激しい運動をしたように浅く、更に時折、その冷たさに喉でも痛んで唾を飲み込むのか、私が見つめる顎先から下の喉仏も、何度か上下に動きました。

 今まで数え切れぬ程に接吻を繰り返して来た私達ですが、こんな風に激しい運動の後のように息が上がったのも――ロメオ様の纏う学生服の袖が、裾が、皺が、飾りボタンが。せわしなく喉もとに掛かる湿気った冷たい吐息が――恥ずかしくて合わせることの出来ずにいる彼の視線が。

 何も纏わぬ肌に擦れる感触を、撫で上げる感触を、まるでロメオ様と身に纏う全てがピリピリと電気を帯びているように如実に感じられることは、全くもって初めてのことでありました。

 そうして――とっても不思議なことに、そういった身体のあちこちを電極にして、流れる電気は全て、ロメオ様の膝に左右から夾み付けられるようにして押さえつけられた腰元に溜まって行き――そのむず痒さをどうにかしたくて身を捩る程に、両膝によって強く挟み込まれた腰は彼の纏うズボンの膝と擦れ合って、動けば動く程に腰に電気が溜まって行くという具合なのです。

 そうして、その電気はというと、腰を痺れさせると同時に、まるで甘味を口いっぱいに頬張った時のような多幸感と、薬味が効きすぎたうどんや蕎麦を不意に口に放り込んだ時の、何が起こったか身体の反応に理解が追いついて行かない時のような驚きやとまどいといった、相反する感覚を心に伝えて行くのです。

 その感覚を受けた心が、その多幸感と戸惑いの間できゅーんと揺れ動くと、また腰がびくりと跳ねて、心に多幸感ととまどいが生まれてと、とにかく、永久に、まるで甘味でも味わうかのような、ふわふわとした多幸感に包まれ続けるといった具合なのです。

「あぁ……ジュリエッタ……っ! そんな顔で僕を見上げないでおくれ……返事を、聞くのが怖くなってしまう」

 その上、きゅーんと心を痺れさせたままでロメオ様を見上げると、眉を寄せたロメオ様は何故か悲しそうにそう言って。

 何かを言わねばと口を開いた私の両頬を抑え、私を組み敷いたことで今までよりより深く、情熱的な接吻を仕掛け、私にもそれを強請るのです。

「あんっ……私に……でき、る、ことでしたらなんでも……して、さしあげます」

 ですから、何度目かの接吻を終え、痺れた舌を動かしそう言い、ようよう微笑み返した時。

 私はいよいよ頭の中に靄の掛かったかのような心地になり、もうロメオ様の顔を見上げるだけで腰の辺りが電気に疼き――その疼きを己から求めるように、膝を摺り合わせるようにして意識せずに腰を揺らしておりました。

「あぁ――」
「きゃっ!」

 そのまま、上がった息を整える為の、ゼイゼイという早く深い呼吸を何度繰り返した時でしょうか。

 そうお返事をしたロメオ様が不意にお顔を上げ、落とした視線がじっと向いた場所を、私も僅かばかりに顎を引いて追いかけて――そうして思わず首を竦めて目を閉じました。

 何故なら、ロメオ様の視線が向いたそこでは、襦袢が大きく左右にはだけられたことで露わになった、誰にも見せたことの無い、両の乳房に向かっていたからです。

「そ、そんな所は見ては嫌です……!」
「何故だい、ジュリエッタ――こんなに綺麗で健気なのに」

 思わず襦袢の裾を引き寄せようとした両の腕を長椅子の肘掛けの上にまとめて掴み上げられ、恐慌状態になって思わず薄目を開き掛けた私でしたが。

「ひっ……!」

 次に目に入った光景と、心臓を氷で冷やされたような冷たさに、再び言葉を失い、ぎゅっと目を閉じて顔を背けました。

 見下ろしたそこで、私の乳房はロメオ様の大きな手に握り込まれるようにして、まるでお餅か葬式用の大きなお饅頭にでもそうするように――そこにあるのが私の身体の一部ではなく、ただの物であるように――ぎゅっと捕まれていたからです。

 普段から、着付けの時に見苦しい程の大きさに育ったからと、ぐるぐると締め付けて平らに均しているような場所です。ですから、私自身がそれを見るのも、寝間着からの着替えと入浴の時に限られています。

 だからといって、自分の乳房など、まじまじと眺めるような物ではありませんし、ましてや、自分の手でさえ掴み掛かることなど滅多に無い場所です。

 ですから、自分の身体の一部でありながら、その実感が薄く、人どころか己でさえ碌に触らないその場所に施された、その全くの無造作な扱いに、私は衝撃を受け――しかも、その乱暴な狼藉を働いているのは、私に常に敬意を持って接して下さる、私の秘密の恋人なのです――同時に、まるで心臓を直接握り込まれたような、私の乳房が身体に何かしらかを送り込むような鞴になったような錯覚を覚えました。

 何故だか、握り込まれる度に、まるで暖炉や竈に鞴で空気を送り込んで一層に火の勢いを上げるかのように。

 彼の両膝に挟み込まれた腰に全身から届くピリピリが、なお一層強くなって、まるで腰を中心に、体中がそれこそ熱風で炙られているかのように疼き、ついには全身までもが汗ばんでくるのです。
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