> わたくしとロメオ様の夢 > 7
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「いやっ、いやです……堪忍して下さい……そういうことをしてはいや……」
「ほう、本当に? ――この場所は嫌がっていないように見えますが……」
「し、知りませんっ! そんなこと……」
「あぁ……思った通りに柔らかい……離したくない」

 それが怖くて、恐ろしくて、私は首を左右に振りながら暴れるのですが、彼は、ロメオ様は許してくれず、それどころか、一層に荒い、まるで獣のような息を私の首筋に落としながら、なお一層丹念に、心臓のすぐ上の肉を、乳房を、丹念に揉み込むのです。

「ねぇ、目を開けてごらん? 可愛い僕のジュリエッタ……愛しい人。お願いだから、ねぇ」

 何度も何度も繰り返されるそれに、翻弄されていた私でしたが、恍惚としたその言葉と、きゅっと、乳房の全体ではなく先端にだけ感じた圧に観念して目を開け――そうして、後悔致しました。

 そこでは、つい今しがた目の前にありましたロメオ様が、私の乳房の上に移動し、お餅のように捏ね回された胸の上で茱萸のように色づくその先端を、じっと見ておりました。

「やっ……やだっ! そんなの……はずかしい、です。ロメオ様」
「いや、恥ずべきことでないのだよ、ジュリエッタ……君の乳房は、僕の為にそうなったのだから……」

 と、思えば。なんと、赤くふくれたそこに恭しくも口づけを落とし、本当に茱萸の実を口にするかのように、舌を伸ばし――そのまま、まるで乳の出を促すように揉み込みながら、ちゅうちゅうと音のしそうな程に吸い付くではありませんか。

 そのことと、彼のその行動に、私はがぁんと頭を殴られたような衝撃を受けたのでした。

 お恥ずかしいことなのですが、私はその時まで、そこは、赤ん坊に乳を含ませる為にあるのだと、そう考えておりました。
 確かに、己の胸を見下ろして「赤子はこんな物をどうやって吸うのかしらん」と考えたこともあったように思います。

 ですが、きっとそれは私がまだ子どもであるせいで、子を孕んだなら、幼い頃は平らだった物が急に隆起したように、また形が変わるのだろうと思っておりました。

 だのに、まさかその思い込みの答えが、こうして赤く茱萸のようにポツリと膨れるだなどと一体誰が予想できるでしょうか。

 しかも、ロメオ様の言い分を信じるのならば、まさかそれが、赤子に乳を含ませる為などではなく、こうして物のように揉み込まれることで変化がおこって、しかもその変化の理由が、殿方にこうして咥え嬲って戴こうと、捧げる為の反応だなんて。

 女の身体とは、何と、罪深く破廉恥な造りをしているのでしょうか。

「はぁっ……やぁっ! くすぐったいっ……! ピリピリします……あぁん、ロメオ様……」

 しかも、どうしたことでしょう。チュウチュウと、熱心に揉み込まれ、吸い出される度に、乳など出ない筈の乳房の中を今度は今までと逆に、腰の痺れを胸から吸い上げられるようにして『なにか』が駆け上って行くのです。

 そうすると、イヨイヨ腰の辺りがじーん、じーんと痺れ出して、するともう息などつげず――気付けば私は、今や私の腰に完全に座り込むようにして押し付けられたロメオ様の腰に、膝を曲げて腰を上げ、熱心に腰を擦りつけておりました。

「本当に、こんなに僕のことを求めてくれているのだね、君は……」
「あ……」

 唐突に、胸から口を離されたということに、私は一時気付かず、間抜けな顔で半身を起こした彼を見上げておりました。

 そうして、何処か嬉しそうに頬笑み、頬に小さな接吻をして下さった彼の視線が、その一連の動作で肌に擦れる衣服によって起こされた、今まで乳房を弄ばれ続けたことで身体に帯電した電気がパチパチと鳴るような刺激に揺れた腰を捉えた時。

 私は初めて、己の腰が、まるで痙攣でも起こしたかのように私自身の意志と関係も無く揺れいることに気付きました。

「あっ、あの、あのっ……」

 ただ痙攣を起こしただけ。ですのに。

 一体どうしたというのでしょう。私は何か、途轍もなく破廉恥な現場を――接吻や抱擁よりも気まずい何かを見られたような気分になり、いつの間にか自由になっていた両手で顔を覆いました。

「言っただろう、誰でもそうなるのだと……さ、顔を見せておくれ」
「あ、ぅ……んんッ……ふぅあ……」
「そうそう、もっと溶けきったいやらしい顔で僕を見上げれば良い」

 だけれど、その両手は簡単に奪い取られて両の指先を絡めるようにして握り込まれ――次には私は、まるで唾液で溺れてしまうかのような、激しい接吻を繰り返すこととなりました。

 その間、唇や舌をまるで形を変えるかの如く強く吸われる度に、「私の乳房もこのようにして吸われたのだ」と、そのようなことばかりを考えしまったせいでしょう。

「あぁ……ンっ」

 幾度めかの接吻の最中から、散々に辱められた乳房は、彼の学生服の胸と胸が擦れ合うだけで、どうしようもない、まるで高熱で頬や首筋を腫らした時に、それが治って引いて行く最中に感じるような、じーん、じーんとした重い疼きを起こすようになりました。

 それだけ強く、乳房を嬲られ、腫れ上がったということなのかも知れないのですが――それらと違うのは、頬やら首やらを腫らした時と違って、乳房を腫らしたこの疼きは、どうにも、癖になるのです。

 どれくらい腫れが引いたのか、どれ程の痺れが残っているのか、自分で揉み込んで確かめてみたい――または、確かめて欲しいと思う程に。

 そうして、現に私は気付けば、深い接吻を繰り返しながら僅かに背を浮かせ、あえて自分から彼の胸に自分の胸を押し付けることにより、彼によって弄ばれた乳房がどれくらい腫れているのかを、その腫れの起こす疼きがまだ続いているのかを、確かめ始めていたのでした。

 だけれども、そんなことは本当に言えばその時の私にはもうどうでもいいことであって、今、私はただ、一人の女として、人間として――ロメオ様のジュリエッタとして、一対の存在として、一つに引っ付いていたい気分なのでした。

 全身を心地よさに振るわせながら、もう、衣服も、身分も、性別も、私達を隔てるもの全てが煩わしような、そんな気分であるのです。

 ――そうして、何度も口づけを交わし、私の熱い息と凍てつく息とが混ざり合って気道を焼き、ひぃひぃと吐き出す息まで飲み込まれながら、私は気付いたのでした。

 舌をまさぐられ、チュウチュウとしつこくながら、擦りつける胸を胸で圧迫され、腰を押さえつけられ――身体の何処にも逃げ場の無い状態で、私に注がれているその息が、息ではなく『言葉』だということに。
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