あたしとマサの出会い編
アナザー:君の幼なじみ
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 出会い、というほど大げさな物じゃあないけど、奴が最初にあたしと接触して来たのは、近所の大学のカフェだった。
 前の日の徹夜が響いて、ご飯を作る気にならなかったし、一週間も引きこもっていたから、人の声が聞きたかった。
 あたしは、人間というものを見るのも、自分が人間として見られるのも煩わしいと常日頃思っている。
 だけど、人間の声を聞くのは嫌いじゃない。
 だってほら、キャッチボールが出来ない人でも、バッティングセンターでミットを構えることは出来るじゃない。
 投げ返さなくていいのなら、あたしは言葉を浴びるのが嫌いじゃないのだ。

 大学には、カフェとは別にランチメニューの充実した食堂がある。だから、ジャスト昼時を狙うと以外と空いていたりするのだ。
 だけどその日は珍しく込んでて……でも何とか、一階の半分の面積を覆う二階席。
 その一番隅、殆ど壁と同化するように角に合わせて寄せられた二人用席に座ることが出来た。
 二階席はわざわざ階段を登らなきゃいけない上、階段が入り口の正反対にある。
 だから、そこはカフェで一番人気がなくて、だからこそ、あたしのお気に入りだった。
 あたしとそう年も変わらないくせに、学生生活を謳歌している奴らと同じ空気を吸うまでは出来ても、肩を並べるのはまっぴらごめんだから。
 二階席でしかも壁際。下手をしたら注文する人さえ気づかない些細な場所。勿論、カフェの入り口からは見えないし、一階ホールから見上げても見えない。

「ミ、ミル、ル、クティを……」
「かしこまりました」

 なんて、どもりながら注文するまでに、まずは「すみませぇん!」なんて声を掠れさせ、ブンブン手を振らなきゃいけないほどに、店員さえ通りかからない。

(ふふっ、人がゴミのよう……)

 なんて、一階の混雑に呆れて鼻を鳴らしたのだって、下の煩い固まり達は気づいていなかっただろう。
 だから、ここに座っている人を『偶然』捕まえるのは、よっぽど注意して探さないと難しいだろう。
 だからうん、やっぱり『出会い』っていうのは適切な言い方じゃないかもしれない。
 奴の言い分によると、奴は私の視界の外からずっとあたしを伺っていたそうだから。

 つまり、あたしが『奴との出会い』と言って話し出そうとしているこの話は、奴にとっては『あたしの生活圏内に飛び込んだ』話なのだ。

「縄跳びみたく、タイミングを見て、ぴょんって」

 その時の話をする奴の、もうこんな前置きだけでも、あたしと奴との間にある天と地ほどの差が分かるというものだ。
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