あたしとマサの出会い編
アナザー:君の幼なじみ
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「……うえっと、言いましたっけ?」
「えっと、誰が? 君、それとも俺?」
「あたし! 言いましたっけ、いいですよって、席」
「あっちゃぁ。そこまで戻ったか」

 漸くその言葉を発したその時、ランチの混雑は大分落ち着き、端正野郎とあたしの間には二人前のピザの平らげ終わったお皿が置かれ。
 更にあたしは、その端正野郎が「マサ」と言う名前で、この学校の院生だと言うことを知った。益々猫のようだ。

「ほら、がんばって、結論まであと一息だ。言えたらアイス買ったげるから」
「あたし、あたしが……まだいいって、言って無いのに何で座りましたか! 初対面だろうが! 緊張しないのですか相席マニアかおのれは」
「うん、さっきよりは少し言葉が自然になったね」

 マサ野郎は私が言葉を発する度、あたしの前髪を掻き上げるようにして頭を撫でる。
 最初は「もうこの世の終わりってか、世紀末みたいな顔してるよ」などと指摘されていたあたしだが。
 そろそろ、引っ張られる前髪にも、額に当たる、猫に引っかかれてるみたいな爪のちくちくにも慣れてしまっている。
 目立たない席とはいえ人前で、端正な男に頭を撫でられてみてくれ。
 あたしでなくてもきっと、もうどうにでもなぁれって気分になるはずだ。もう何もこわくない。

「黙って質問に答えやがれ」
「あら、汚い言葉使い」

 そして、そうやって慣れるまで頭を撫でられたということは、暫く食べること以外に使われなかった口も十分なウォーミングアップが済んで絶好調だ。
 そう、私とコミュニケーションを計る時の第二関門がこれだ。慣れてない人と会話にならない代わり、少し気心が知れた人には何でもべらべらと喋ってしまうのだ。
 そうして大体は、苦労して喋らせた結果がこんな性格だと知ると、酷くがっかりした顔をする。

「キミのような女の子は、そんな汚い言葉を使っちゃだめだよー」
「あいたっ」

 が、マサは全く気にする様子が無い。
 どころか、背中まであるあたしの髪を一層グシャグシャと乱し、少しばかり嬉しそうでさえある。

「おしおきだから痛くしてるんだよ」
「嘘ださっきから撫で方が乱雑だ」

 ――あたしと話してこんな顔をする奴というのを、あたしは幼なじみしか知らない。

「……ん?」
「どーした?」

 ということは、生まれた時から付き合いがあって、月に一度は飲みに行く幼なじみとさえ、つい数刻前に相席した名前も知らない男と同じくらいの絆しか作れないということか。

「なんか知らないけど、しょんぼりしてるのは分かったから頭撫でとくね」
「えぇい、さわるなうざったい! おぐしが乱れに乱れるわ!」
「……言い回しの矯正は諦めようか。まぁ、喋れただけで上出来だね」

 きっと、喋る相手遊ぶ相手に困らないくらい恵まれた容姿と人格を持つと、脳がハードな刺激を求めて少しおかしくなるのだ。
 あぁそうか、きっとそうに違いない。

「まぁー。おかしいっちゃおかしいかな?」

 気付けばそれも声に出ていて、マサはあたしの頭を撫でながらげらげらと笑い出す。はて、もしや酒でも入れてしまったんだろうか。いやいや、ここは大学のカフェテリア。間違ってもアルコールのたぐいは無いであろう。

「まぁ、酔ってはいるけどアルコールじゃないよ」

 しまった、また言葉になっていたらしい。頭を撫でられて気づくとは、やはり久々に外出すると頭の巡りが悪いようだ。
 なら何に酔ってるというのだかと思考を巡らすと、しいていうなら幸せかな、と返事が返ってきた。

「なんせ一週間ぶりだもんねぇ。キミが大学くるの。思わず声もかけるっての」

 あぁそうかそうかなるほど、だからこいつは、ついあたしなど相手に相席などという暴挙に――っておい!
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