あたしとマサの出会い編
アナザー:君の幼なじみ
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 侮蔑と慈しみの両方。それを両方吹き込まれて、人付き合い初心者の頭が混乱しない訳がない。
 ――言葉を吹き込まれたそこから、全ての音が消えるような錯覚を受けた。

「ほら、とっときの情報だったでしょ?」

 にも関わらず、身体を離して微笑むマサは、さっきまでのマサだった。 何でもないように身体を離し、悪びれもなく肩をすくめる。
 それが、その仕草が、とっても恐ろしかった。
 だって、だってそれって、あたしがマサを知らないのに、マサがあたしをしっているっていうことを。このどうしようもないねじれを。

(こいつは……当たり前のこととして処理してるってことでしょ?)

 ――でも、マサのその手管、あたしは責められないのかも知れない。

「ね、なんで」
「ん?」
「なんで、知ってるの?」

  こくりと喉を鳴らして振り絞った声も、漫画や三文芝居のように白々しかったから。

「……俺が、『何でも知ってるお兄さん』だからじゃ不満?」
「おおいに……不満」

 自分が知らない人間が、自分のことを知っているというのは凄くいやだといったことを、がんばって伝えたところ。
 マサは椅子の背を後ろに傾け、さもめんどくさそうに肩を竦め。

「俺ら、それほど他人じゃないと思うけどなぁ」

 と、顔の前で両手を三角に合わせ、間にふぅとため息を溢して。そして、その手と前髪の伺うように上目遣いであたしを見上げて。

「だって、俺ら、ちょっと前からもう名前で呼び合う仲じゃん」

 ――本日何度めかの爆弾を与えてきた。

「なま、え……? 名前だと!」
「そ、お名前。俺、ずっと呼んでたじゃない。いっぱいの愛情を込めて、『キミ』って」

 再び伏せた色の白く薄い瞼には、淡い桃色が宿っている。先ほどまでのにやにや笑いとは違い、あたしの顔をちらと見てはまた顔を伏せる潤んだ瞳。

「みんなマキちゃんって呼ぶでしょ。でもそれじゃダメなんだよ。俺だけの呼び方じゃなきゃ」

 口元を覆う手のひらごしに言っているからには、それはどうやら独り言のようなのだが、有無をいわさぬ雰囲気を持っている。

「お前は何を言って……」

 これに一番近いものをあたしは最近みた。
 その存在と黒目の全てで「私は貴方が大好きです」と訴えた。そう謙虚に伏せられた癖に、長い睫の下で、ずっと自分の正当性を訴えていたもの。
 何とも傲慢で押しつけがましい癖に、早とちりした自分じゃなくて、あたしが女に生まれたことを責める。
 ――あたしがあたしであることを、あたしの存在の全部を肯定しつつ、否定することを許された。

「ねぇ、ほんとは呼ぶ度にゾクゾクしてたんだよ真君(まきみ)ちゃん

 ――熱っぽく潤む、恋する、少女の瞳。
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