あたしとマサの出会い編
アナザー:君の幼なじみ
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「やめ……て」

 そんな目でみないでくれ。あたしはお前のような、彼女のような人間に惚れられるような器をもっていない。
 美しくて、人と交わりたいと、あたしなんかのような人を慈しみたいと思っているような人間に、君たちに応えられる器なんかをもってなんかいないんだ。

「みないで……!」

 ――だから、そんな目でみないでくれ、あたしに何も期待しないでくれ!
 そんな真摯な目で見られたらバレてしまう。見えてしまう。
 あたしが醜いことが。いかに卑屈で大柄で、そして――自分に自信がなのか。
 だから、こんな近くであたしをみないで!

「やだ!」

 その目から逃れる為に目を閉じて、更に顔を隠そうと咄嗟に両腕を顔の前で交差させた。だが、そんなものはマサには全く通用しなかった。

「いっ……!」

 顎を捕らえて来た手をがむしゃらに頭を振って払いのけたら、今度は髪の毛を捕まれた。
 痛みによる不可抗力で上を見上げれば、やっぱり顔を隠す前と同じ。一方的な思慕があたしを見下ろしていた。

「あのね『キミ』の本当の名前を知った時、本当に嬉しかったんだよ。友達にさえ秘密なこと、知れたんだってね」
「お前に知られる筋合いはない」

 ――真君という名前があたしは嫌いだった。
 最初はどこだろうか。まーくん、まー坊、男女とからかわれた時だったろうか。
 小学校を卒業して以降、上だけを取り、『マキ』とだけ呼ばせ、それを無理に定着させた。
 苦労は要らなかった。高校の半ばから学校に行かなくなったので、呼ばれる必要がなかったのだ。
 家族もマキ、で呼ばせていて、本当の名を知るのは、戸籍だけになったと思っていたし、やっぱり真君よりマキの方が好きだ。
 ――だけど。

「それで、『キミ』って呼び名を思いついた時も嬉しかった。誰かに呼びかけるだけで、名前を呼べるって」
「……普通に、真君って呼んでも多分お前だけしか呼ばないぞ」

 どうせ誰も呼ばない名前なら、この男に呼ばせるのも酔狂というものかも知れないとふと思った。

「呼んでいいの?」
「髪を離せばな」

 相手が髪を離すと同時、後ろに下がろうとしたが、両手で頬を包まれた。

「ぶぎゅ」
「ぶさいく」

 相手も必死だったらしく、以外と強く押されて頬が潰れて変な声が出た。それを笑われるのは中々の屈辱だ。

「でも、それが俺の『キミ』」
「マサのじゃない」

 文句を言おうと思ってあけた口の行き場をなくし、とりあえずとがらせる。
 あたしが欲しいなんてやはり頭がおかしい。おまけにクソ野郎のストーカーで、人に勝手にあだなを付けて。
 ――絶対逃げた方がいい。そう思うのに、怖くない。どうしたものか。

「……どうしよう、どう考えても変態でストーカーなのに、お前が怖くない」
「それは……ちょっと心配かも」
「なら、どうすればいいんだ。『何でも知ってるお兄さん』」

 どうにもならないのでそう聞いてみら、マサは少し瞳を潤ませた後に、ちょっと考え、そしてにんまりと笑った。

「キミは優しいから、自分に惚れている男を突き放せないんだな」
「知ってたから来たんだろう」
「まぁ、そうだね」

 まずはそこから調教して行かないと、と、許容したつもりも無いのに頬を撫でながら呟いたので、やはりこの男はクソ野郎だなと内心で舌打ちした。
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