本編
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前日碑 - 連載を意識して書いた部分です。
うーちゃんの独白で、眠りにつくまでの世界の断片です。
僕の見た夢 - 2013/09/16更新
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あらすじ:

ウロボスこと、うーちゃんが10年ぶりに目覚めたその時。
世界は終わり、病院の地下にある秘密結社は天井をぶち抜かれて瓦解し。
一緒に育った線の細い幼なじみはガタイのいい義手の男になり。

そうして、目覚めたばかりのうーちゃんの足下に跪いてこういいました。

「おはようございます、首相」と。

見た目中学生の怪人×ガタイのいい義手の悪の頭領の、ぐだぐだたまにヘヴィな日常風景。

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即興小説より。

お題:官能的な夢 必須要素:ハッピーエンド 制限時間:15分
「ちぃちゃん、ちぃちゃん寝たの?」

 横になり、ウトウトと微睡む耳に吐息のようにそっと囁かれた言葉。
それに返事しようとして上手く言葉が出てこないのと、薄目を開けた視界に見慣れたズボンの布地と床が見えて納得する。

 これは夢だ。明晰夢という奴だろうと。

 でなかったら、何故こんな昼間に執務室で、しかも自分と同い年で見た目が15歳の野郎に膝枕なんてされていなくてはいけないのだろう。
そんなことも、考えられないくらい眠いとは、本当にリアルな質感の夢だ。

「ねてる……よ」
「うーそ」
「っ……あ」

 夢の中だというのに引きずられるような眠気に再び目を閉じた途端、笑い交じりの吐息とともに、髪をかきあげて露出させられた右耳を軽く食まれた。

「寝てる子はそんな答え方はしないよ。ちぃちゃんは嘘つきの悪い子だ」
「……うーちゃん」

 本当の、うーちゃんだ、と口の中で呟いたのは、うーちゃんにはちゃんと聞こえていたらしい。今度は耳に溜息を落とされた。

「本当も嘘もないよ、嘘つきちぃちゃん。僕は、いつだって僕だ」

 それは違う。だから俺はむずがるように小さく首を振る。

 うーちゃんは、目覚めてから今まで、コールドスリープの時の年齢に近い言動ーー十歳の子どもらしく、15歳の外見には幼いーー言葉使いと甘えた態度を取っている。

 だけど、俺は覚えている。『脱皮』で、人より何歳も先に成長するようにデザインされたうーちゃんは、知能も先にいっていて、見た目や実際の年齢よりもとても賢かったということを。

 俺と遊ぶ時こそ、お兄ちゃん風を吹かせた子どもらしく振舞っていたけど、俺の見ていないとこーー彼が博士と呼んでいた俺の母親との問診という名の対談ーーでは、敬語を完璧に使って何らかの問答を行っていたし、いつからか母親がうーちゃんに毎日渡す課題図書は、洋書になり、最後には英語のプリントされたコピー用紙になっていた。

「うーちゃんの、そういうとこ、嫌い」
「どーゆーとこ?」
「なんでも、俺に合わせる……とこ」
「ふぅん、僕が無理してるってことー?」

 頭の上から聞こえる意地の悪い声を振り払おうと、腕を動かしてみる。

「あれ……?」

 けれど、俺の腕はうーちゃんの艶やかな頬や、長い前髪の先にさえ触れることなく、どころか何度振っても指先に何かが当たる感触さえ無い。

「ふふっ、ちぃちゃーん? これなぁーんだ」

 訝しく思って薄目を開けると、それを見越したうーちゃんが、俺の顔をのぞき込んでいた。
 そして、その両腕に大事そうに抱えられているのは――。

「……かえせ、俺の、腕……」
「えー? どぉしようかなぁー?」

 俺の義手を抱え、うち一本の指を細い頤に当て、きょろっと首を傾げてみせる姿に舌打ちをし、取り返そうと身体を起こそうとしたが。

「ぐっ」

 つい今し方、うーちゃんの頬に押しつけられていた義手の手のひらが、思い切り顔を押さえつけて、俺は再びソファに逆戻りした。

「――もう一回目をつぶって、今度は僕を抱えて眠ってよ。そうしたら、返してあげる」
「う、ん」

 それが本当だったのかどうかは、俺には分からない。

 何故なら、次に目覚めた時、俺は相変わらずうーちゃんの膝に頭を抱えられていたし、右手は元に戻っていたから。
 俺の罪の証は残っていたから。
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